駅まで20分、二人は無言のまま向かっていた。桐間は無理矢理起こされたせいか、いつもの生意気な態度が出せないほど、余裕がないようでふらふらしながら歩いている。
 いつもならふらふらするのは春だが、桐間を歩かせるのに手一杯な春は自分が眠いことすら忘れていた。桐間は、春の方を一度も向かず、ただ歩くばかりである。だが、突然、桐間が止まった。春は気付かず二三歩前に出たが、すぐに止まって後ろを向く。

「桐間?」
「…なんで、来たんだよ。昨日来なくていいって言ったよね」
「え、いや、」

 そう言う桐間に、春は口ごもってしまった。もちろん、自分が良いことをしているとは思っていない。ただのお節介であるからだ。
 もしかしたら、桐間は怒っているのかも知れない、俺を嫌いになったのかも知れない。
 調子に乗った俺がバカだったと、春は肩を落とした。

「ごめん。」

 この言葉しか出ないと春そう言って桐間を見れば、桐間はなんとも言えない顔をしていた。春は違和感を覚える。まるでその顔は春が謝るのを嫌がっているようだった。
 じゃあなんて言えば良かったんだ。
 春は桐間が分からず、顔を前に向けて、目をそらす。今は桐間が言って欲しい言葉が見つからないのだ。そんな春を見て桐間は舌打ちをしながら、大股で近付き春の足をかるく蹴る。春が驚いて桐間を見れば、桐間は拗ねたように口を尖らせた。

「だ、だいたい、お前が昨日、勝手に電話切ったんだろ。来るなら来るって言ってから切れよ! あんな様子じゃおこしに来ないと思ったから! こっちだってな、朝いきなり来られたらびっくり、する、っつー…の」

 語尾がだんだん小さくなっていきながら全て言った後に桐間は、しまったという顔をする。自分がどんな気持ちで『なんで来たのか』と言ったか、少し説明するはずが自分の意図を全部言ってしまったのだ。極端にしか自分の気持ちを表現できない男である。
 畜生、恥ずかしそうに、頭をぐしゃぐしゃにする桐間を、春はただ見つめた。
 本当に嫌がっていたんじゃないんだ。しかも俺が、いきなり電話切ったの気にしてくれていたのかよ。
 そう思うと、いままで悩んだのが晴れる気がした。そして桐間の話し方に変化があることが気付いた。いつもの話し方と違うのだ。荒々しくはなったが、やっぱりこれが桐間なんだと、急に、いとおしくなる。

「なにしてんだ、遅刻すんだろ、早くしろ!」

 照れているのか、また大股で進んで行ってしまう。春は追い付くような早さで歩きながら、一歩後ろを歩き、桐間の背中を見つめた。




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