「あれ、清道くん、それに春くんじゃないか。」

 まだ縛ってないネクタイを首に下げて、功士は春と清道を交互に見る。清道はそんな驚く功士にお構いなしに、功士のカバンを持つと、指を指しながら睨んだ。功士は目を丸くして目の前の男を見る。同様にして、春も自分の父親が、なにをやりだしたかと見上げた。

「お前! 春がかわいいからって朝から春を呼び出すとは、よくもやってくれたな! 昨日の電話から怪しいとは思っていたが…」
「え、なんの話。僕、春くんを呼び出した覚えなんか」
「とぼけるのか! 功士、見損なったぞ」

 功士に突っかかる清道、功士は慌てながら清道からカバンを取り返そうとする。
 そう、清道は功士が春を朝早く呼んだのだと、勘違いをしていたのだ。実際は春が勝手に来たのである。
 なにがなんだか分からない功士にしつこく問う清道に、春は呆れるしかない。春に呆れられるとは、相当なあほである。春は低く、父さん、と清道を呼んだ。

「さっきの聞いてなかったのかよ? 俺は桐間に用があって、それで功士さんに話を聞きに来ただけ。」
「え、さっき…? ああさっき!」

 春がため息をつきながら言うと、清道はやっとさっきの春の言葉の続きを思いだしたようで。安心するといつものクールな清道に戻り、功士にカバンを渡す。
 びっくりした、と堂々と言う清道だが、本当に言いたいのは功士のほうだった。春はさすがにはずかしくなるが、気を取り直して功士を見た。

「功士さん、家あがっていいですか? 桐間をおこしにきたんですが、どうやらまだ起きてないみたいだし。」
「ああ、本当かい? わざわざありがとう。僕はもう行くから、ごめん、頼んだよ。」

 やっと行けると一息をつきながらネクタイを巻きながら歩く功士と共に、迷惑をかけた清道も焦りながら、遅刻すると足早に歩いていった。
 父親の背中を見ながら春はアイスを頭の隅で考えていたが、それすらも桐間のことでかきけされ、お邪魔します、と呟きながら部屋に入る。すぐ横に桐間の部屋が見えたので春は緊張しながらドアを開けた。が、すぐに視界が真っ暗になる。どうやら、クッションが顔に当たったようだ。そして痛がっていると、誰かの足が見えた。見上げると、心底顔が歪んだ桐間が居る。春は怯えながら立った。

「おおお、おはようございます、桐間くん!」
「………めぇは」
「? え、」

「てめぇは普通に起こしに来れねぇのか、能無しがー!!!」

 きっと先ほどの三人のやり取りが、桐間の部屋まで煩わしく届いていたのだろう。桐間の美少年な顔は、跡形もなく般若のような顔になっている。
 あ、桐間の寝起きは怒らせちゃいけないのか。
 春は死ぬ瞬間、最後に思った。




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