「功士さん、ですよね」
『ははは、はるくん! 理依哉から聞いてる!?』
電話に出て確認を取ろうとすれば、その答えすら返って来ず、功士は台詞をかみながら言った。
後ろからは桐間の止める声がする。春は自然と、嬉しがっていた。だが、相手は春とは違い切羽が詰まったような勢いである。なんの話だろう、巡らせてみようと思うが、考える暇もなく功士が大声を出した。
『あと5日、学校休んだら進級できないんだって!』
「…え?」
『ほら、今まで理依哉バカみたいに休んでただろ? いた、殴んなくてもいいじゃない。あ、それでね今日担任の方から電話がきて、二年生の間、あと5日、休んだら進級できなくなりますよって』
春は言葉を失った。確かに予測していたことではあるが、桐間と仲良くするのに夢中で、桐間がその状況に置かれていることをすっかり忘れていたのだ。学校は始まったばかりで、まだ、7月である。
進級できなかったら、桐間と離ればなれになる!
春の頭には、もはやそれしか無かった。考えている間に、あちらが声をだした。
『なあ。』
背中に電撃がはしる。
この声は桐間だ。
春は深呼吸しながら、いつの間にか変わっていた電話のあいてに、ためいきをついた。そして大口をあける。これはもんくを言うための準備だった。
「桐間のばか、自分でヤバイことくらい気付いていただろ! 進級できなくなるとか、大変なことなんだぞ!」
『あーうっせーな…』
「うっせーじゃない! 後先考えないと、後悔するのは自分だよ」
『…お前は俺の母親か! てゆーか人の話を聞いてよね、この単細胞!』
ん、単細胞ってなんだ。
春は最後に聞こえた言葉に疑問を抱くが、質問する前に話を聞けと言われたので黙りこくる。すると、春の聞く態度に気付いたのか、桐間はごそごそ動き(きっと、腕を組んだのだと春は思う)あきれながら言い始めた。
『留年のことくらい自分でわかってるよ、ちゃんとカウントしてるしね。だから今度からはちゃんと学校いこうとしてたのに、クソ担任が功士にチクったんだよ。だから心配はしなくていいってわけ、お馬鹿な春クンでもわかるよねー?』
小馬鹿にした笑いを含めて、桐間が言った。つまり、桐間は意外と真面目で、最初から来る気だったのだと言う。
良かった、と胸を撫で下ろすと、ここで、桐間が心配な一言を溢した。
『ま、朝起きれないし、寝坊しないとは限らないけど』
遅刻と言えど、毎日していたら単位が取れないので、休むのと同じである。
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