家に帰って春はリビングに行き、椅子に座ると、ため息をした。これは、いいため息である。
 やっと浩と決着がつき、桐間とも順調に距離を縮めているのだ。しあわせにひたってもいいだろう。
 春はもう準備してあったハンバーグに唾液を飲み込みながら、いただきます、元気よく言えば結羽が微笑んだ。

「ひさしぶりに笑顔見たわね」
「そう?」
「なんかいままで、顔白かったもの」

 優しく言う結羽は、さすがは母親だ。日々春の状態を気に掛けていたのである。春はもうしわけなく思いながら、ごはんをかきいれた。育ち盛り故にすぐたいらげた春の皿に、結羽はおかわりのハンバーグを乗せる。ひさしぶりのほのぼのとした食卓に、春は頬を綻ばせた。

「…俺の分はないのか」

 寂しそうな声が、春の耳に入る。結羽も春も驚きながらドアを見れば、汗ひとつかいていない清道がたっていた。いつもより早い父親の帰りに、春は顔をひきつらせる。
 嫌じゃないんだけど、父さん絡みが気持ち悪いんだよな。
 こんなことを愛しの息子に思われているとは知らず、無表情な顔を崩しネクタイをはずしながら、春の肩を揺らした。

「はるー! ただいま」
「あ、あはは。父さん、おかえり。」
「相変わらず気持ちの悪い父親だこと。食べたいなら自分で用意しなさい。あ、ワイシャツと靴下はかごにいれなさいよ」

 結羽の言葉に清道は傷付きながらも、朝まで着ていたスウェットに着替えて、ワイシャツと靴下はかごに入れに行く。結羽の言うことは、絶対であった。清道は何事もなかったかのように春の隣に座り、春が食べる姿を延々と見ながら、ちゃっかり食べあげる。そんな清道をみて、結羽もすこし笑っていて、春は幸せな気持ちになった。と、同時に桐間のことを考えた。
 春は明るい家庭の中で生きてきた。家族を愛し、家族から愛され、自分でもかなりの幸福者なのではないかと、思うほどだ。だが、桐間は母の愛を知らない。自分を愛してくれていた、功士のことまで長年疑って生きていたのだ。
 辛かったんだろうな、桐間のやつ。
 思うと止まらなくなる。暗い考えしかできなくなってしまったのだ。その空気に気付いたのか、結羽は春の顔色を伺う。そんな結羽を見て、清道もつられた。大丈夫、と言い掛けた瞬間、電話が鳴り響く。電話と座った距離で必然的に、清道が受話器をとった。

「はい。……なんだ、お前か。…………ああ居るよ、でも今はちょっと……………ああああ!分かった、そんなに叫ぶなって」

 清道は電話に出たかと思えば、めんどくさそうにそう言いはなつ。けんかなどではない、清道がこんな話し方をするのは、ただ一人だけである。それに反応して春が受話器を取ろうとすれば、自然に清道から向けられた。どうやら電話を寄越してきた本人、功士は、春に用事があるらしい。






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