春が、浩の方へ向く。さきほどまで目をそらしていた浩は、ちゃんと春の目線に合わせて膝立ちし、近くへ近寄っていた。
もう、春はこの“好き”の意味が友達なんて思うほど、単純ではなかった。浩の目も、このねっとりとした気温も、自分がただ事ではないと感じて多くなる鼓動も、すべて繋がるからである。春はなにも言えないでいると、浩は話を続けた。
「中学の時から自分の気持ちに気付いていた。お前を見るたびに悩まされて、本当に…お前がいるだけでいいと思ったんだ。だけどはるは俺を見てくれない、男、だしな。だから隠そうとしたんだ、でも」
浩の瞳に、涙があるのがわかる。なかないで、と言いたい。くるしまないで、と言いたい。けれど親友をこんな気持ちにさせているのは、言わなくてもわかった。途切れた所から、浩はくちをあけた。
「桐間が、出てきた。あいつは、最低なやつなのに、お前はどんどんひかれていって。俺と何年いても、俺を好きにはなってくれなかったのに、一度見た桐間を…すきになって」
「だから、なのか。俺と桐間を離そうとしたのは」
春は核心をつく。浩は顔を真っ赤にして怒っているのか、泣きそうな顔をしているのか、わからない表情を浮かべた。
「ごめん」
春の足に顔を埋めて、コンクリートの地を掴む。泣いているのか、春の足にも流れてくる熱。
「惨めだな、俺。あんなにしがみついたのに、お前は揺らぎもしなかった。ごめんな、もう、邪魔なんかしない。」
浩は顔を上げて、いつもはなかなか見せない笑顔を見せた。一生懸命送り届けようとするその笑顔に、頷くしか出来なかった。
浩がこんなことを考えてるなんて、思いもしなかった。ただ、俺らは親友として好きあっていたとおもっていたのに。
謝りたくなったが、謝れば逆に浩に失礼な気がして春は謝るためではなく、声をかけるために口を開いた。
「これからも親友だぞ」
なにがあっても親友というものは揺るがない。確かめるように春が言うと、浩はびっくりしたような顔をする。なんでそんな顔するんだと、春が不思議に思えば浩は何を考えていたのかいった。
「こんな俺でも親友でいてくれるのか」
なんだ、なに気にしてんだ。ばかやろう。
春は浩のおでこにでこぴんをすると、浩は顔をしかめる。春はそんな浩の顔をのぞくと、口をあけて笑った。
「あたりまえだろ」
春の言葉に、浩は安心したように、ほほえんだ。
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