昼休みになると、アンケートは全て集まり、龍太は仕事を終え、放課後には清々しく帰っていく。手を振りながら、春と浩は龍太を見送った。

「しゅん、お前サッカー部はいいのか?」
「あー、いいんだよ。今日疲れたし」

 真面目な浩には理解出来なかったが、春の性格を知っているので浩は何も言わない。春は浩と他愛もない話をしながら、今日のことを思い出していた。いつもと変わらない、強いて言えば桐間の事。友達になれなかったから落ち込んでいる訳ではない。今までにだって皆が友達だった訳ではないし、仲良くなれなかったやつだっている。だが、桐間のあの表情。春だけではなく、人間を拒否しているように見えた。

「なぁ」
「ん?」
「桐間くんのことなんだけど」

 春の言葉に浩が顔をしかめさせる。間髪を入れずに、浩は春を見て小さく呟いた。

「俺は気に食わないけどな。態度悪いし、良い奴には見えない」

 その言葉に春は反論しようとするが、言葉を詰まらせる。
 俺は桐間の何を知っているのか、なにもしらないのに何を語ろうとしているのか。馬鹿らしくなり、春は頷く。そんな春を見て、浩も何も言えなくなり、言葉は吐き出さなかった。
 いつも通りなのに、喧嘩したわけではないのに、二人は話さなかった。むしろ、話せなかったと言ったほうが合っているかもしれない。いつも二人がさよなら、と交わして別れる道も無言のまま別れる。春はそのまま真っ直ぐ家に帰ろうとしたが、喉が渇いたものだから、少し寄り道して自動販売機に向かった。財布を出すと110円しかない。100円の水しか買えないが、春が飲みたいのは150円のお茶。仕方ないと100円を入れようとすると、穴から外れて手から100円が滑り落ちていく。春が拾おうとしてしゃがむと、目線の先には、黒い革靴が見えた。首を上げて見ると、そこには先程噂していた相手が居た。

「きりまくん…」

 思わず、春は声に出してしまう。ハッとするが、桐間は表情を変えないまま春を見下していた。また、刻が止まって、

「いつ買うの? 買わないなら退けよ」

 首を傾げる姿は可愛らしいのに、口調は強い言葉に春は100円を拾うと、道を譲った。桐間はため息を吐きながら、わざと足音を立てながら歩くと、水を買って足早に去ろうとする。それを見て、春はねぇ、と桐間に声をかけた。桐間はゆっくりと、振り向く。

「…なに?」
「あっ、あぁいや。あのさ、40円貸してくれない? 困ってんだよね」

 春だって、そこまでしてお茶を飲みたいわけではなかった。これは言い訳である。焦りながら伝える春を見ながら、桐間は舌打ちした。

「俺、あんたに金貸すほど、仲良くなった覚えないけど」

 桐間に言われて、春は悲しくなった。いつもなら笑い流せるはずなのに、そうはならない。握りこぶしに力を入れる。構わなければいい、こんな奴、わかっているのに何故か惹かれた。だけど何も本当の気持ちは口からは出なくて、謝る事しか出来ない。桐間は興味無さそうに目を反らした。それを見て、春も桐間と同じように水を押す。冷たい水を押し込み、桐間がなんだ、と無理矢理消した。





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