自分の感情が素直に出た春は、本人を前にして“桐間を好き”と考えてしまった自分が恥ずかしくなる。赤くなった頬はまた、一層、赤みを増した。桐間はそれを見て、春をのぞきこむ。

「なんかお前、赤いよ?」
「い、いや! 暑くてさ」
「ああー、確かに日に日に暑くなってんな」

 あちー、と言いながら立つ桐間は、帰る雰囲気はなかった。いつもなら真っ先に帰ろうとするのに、春の会話に付き合おうとしている姿に、顔は赤いまま戻らない。これくらいでドキドキするなんて、と春は自分を殴りたくなった。
 しばらく動かなかったが、自動販売機を見つけるとだらだらと足を引きずりながら歩いた。そういえば、と桐間は鼻で笑った。

「お前さ、前俺に40円貸してって言ったよね」

 覚えていたのか、と内心驚く。あの時は興味無さそうに目をそらされた上に、馴れ馴れしくするなと言わんばかりのオーラを出されたことを思い出した。春が頷けば、桐間は五百円玉を財布から取り出すと、自動販売機に入れる。

「あの頃から思ってたんだよね、うぜー奴が居んなって。」

 がしゃん、ペットボトルが落ちて、桐間はそれを取り出した。そこにしゃがむとごくごくと美味しそうに飲む桐間を見て、春はつられて自動販売機にお金を入れるとなんだよ、と反発した。

「うぜーとかひどいな。はじめて会ったときは?」
「え、知らね。お前空気なんだもん。覚えてないよね。」

 なんだもん、の言い方が可愛い、などと春は感動しながらも、桐間の槍のような言葉に挫けそうになる。春は桐間を初めて見たときから、惹かれていたのにその初めての春を空気などと言ったのだから。春が肩を落としていると、桐間は誰も気付かないくらい一瞬だけ笑って、春をみた。

「でも、その後は印象強すぎたね。会ったら言い合いばっかだったし。こんなにしつこいのは、功士に並ぶね」

 桐間のその言葉だけで、先ほど気を落としていた春は機嫌を良くする。そしてその衝撃で間違えてボタンを押してしまい、栄養ドリンクが出してしまった春を、桐間は笑った。
 それをさかいに、腰を上げた桐間はもう帰るのだと思う。功士のいる家に帰ることは良いことだ。春は頬を綻ばせた。

「桐間」
「んぁ?」
「また明日」

 ぶっきらぼうな返事だった桐間は春の言葉に驚いたのか、これでもかと、目を見開く。そして頭をかくと、あー、と言葉を濁らせる。

「また、明日」

 目を合わせずに、ただそうとだけ告げて桐間は家に入っていった。春はその場に縫い付けられたかのように、動けなくなる。
 春は今、まさに、桐間とわかりあえて良かったと、強く感じた。






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