家に着くまで、桐間と春はどちらも口を開かなかった。春は何回か口を開こうとはしたが、桐間の横顔を見るだけで、満足してしまうのだ。青々しい景色とともに、春は桐間と歩くのを実感していた。
 だが、マンションに着くと、黙って自分の家に行こうとする桐間を、春は止めるしかない。桐間は今までの行動は帰るだけの行動かも知れないが、春にとっては一緒にいるという行動だったからだ。
 聞きたいことがある。
 春は考えながら、なにも言わずに腕を取ると、桐間はとまって春をみた。

「なんだよ」
「なんで、先生はさ、桐間を見てあんな顔するんだよ。」

 春は期待はしないながらも、聞いてみることにした。担任の顔の歪みは、只の生徒を見るものではない。桐間も桐間で、なにかもめていたようだし、それが気になった。
 二年ではじめて春たちの担任になった担任と、なぜ桐間が関わりがあるのかも春は知りたかった。ただたんに、学校へ来いとでも説教しているのか。はたまた、ほかに理由があるのか。春がちらり、と桐間を見れば春を見ないで言った。

「理由は言いたくない。」

 馬鹿にしたようにでも、寂しげでもなく。きっぱりと言った。その姿は、いつも鼻につくような桐間の態度ではなく、高校生相応の態度であり、新しい一面である。春はその態度に胸を高鳴らせながらも、もう一度突っかかった。

「なんでだよ?」
「言いたくないから?」
「なんで疑問符ついてんの」
「別に言いたくないわけでもないから」
「なにそれ」
「よくわかんね」

 そう言うと桐間は自分をからかうように、少しだけ笑う。春は桐間が笑ったそれだけでも驚いたのに、会話がぽんぽん、と繋がれて行ったのだ。今までに無かったことで、春は最初話していた話よりも、その事が嬉しすぎて、何を話しているのか分からなくなった。
 表情が柔らかくなったことや、その表情の方が良いことを本人に伝えたかったが、言えばまた生意気な顔になるとわかったので自分の中だけの秘密にすることにした。足を交差させて自分の影を見ながら、春は口先を尖らせる。

「言ってくれても、いいじゃんか」
「あ、ストーカーだから俺の全部知りたいのか」

 春が拗ねたように言うと、からかうように桐間が言う。春は顔を真っ赤にさせると、図星か、なんて桐間はふざけてみせる。
 なんだよ、この桐間。俺が知ってる桐間じゃない。いや、これが本当の桐間なのか…? だとしたら…


 もっと好きになってしまう。






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