前、担任と何か話していた、そうだ、話してた。あの担任の険しい表情、あの時と一緒だ。
春はかばんも取らずに廊下に出る。もう担任と桐間は居なかった。どこかに移動したのかと、階段へ走ろうとすると、首根っこを掴まれて動けなくなる。誰が自分を押さえているかくらい、春も分かっていた。
睨むように振り返るが、浩は動じない。春は自分を掴む手をはらった。
「オレは、桐間を、追いかける!」
一言一言、強調させ、自分に言い聞かせるように浩に言った。浩は冷たい眼差しで春を見ながら、腕を組むと壁に寄りかかる。
春は今から浩が言うことが想像出来た。だから言い返す言葉を考えるが、すぐには出てこないので、息がつまりそうになる。目の前の冷たい浩と目をあわせることは、春にとって避けたいことだった。だが、今逃げて桐間のところにいけば、また浩は傷つく。だからその前に伝えなきゃ、と春は顔を上げた。
「浩、言いたいことが…」
「嫌だ」
震えた声で言うと、その声は、浩によって消される。まるで駄々をこねる子供のような言い方で、春を困らせた。冷たい表情は姿を変え、泣きそうな表情になり、春は思わず寄り添いたくなる。
「浩?」
「聞きたくない、今からしゅんは俺を突き放す。そんな言葉、聞きたくないんだ」
弱々しく俯く浩。なんて面してんだよ、いつもの堂々とした浩はどうした。
でもこんな表情にしているのはまさしく春であった。春はこんな顔させたくなかったのに、と拳をにぎる。けれどここで折れれば、桐間を諦めることと一緒だ。春は口を開こうとする、と
「なんか用?」
ずっと、聞きたかった声が後ろから春の耳へと響いた。春が振り返ると、そこには腕を組みながら壁に寄りかかり、こちらを不機嫌そうに見る桐間が居る。
「え、なにが」
「俺が教室はいったら、お前も、そのでっかいのも何か言いたそうに見てたから。何かもんくでもあんのかな、ってね。」
またバカにした笑い方で春を見た。前と変わっていない態度だが、まだ優しさが感じられる。春は嬉しくなり近づこうとすると、それは浩によって遮られてしまった。
浩が力を入れると、春は顔を歪ませる。自分の方へ引こうとするが、春も全力で抵抗した。するとそれを見ていた桐間は、浩を見ながらいい放つ。
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