一週間前のことは、もう夢のようだ、と春は英語の授業を聞きながら、考えた。一週間前、それは桐間と衝突して、そのあと、嘘みたいに話していた。
 幸せだ、とこころに刻み込んだのは自分のなかだけの秘密。これからもそれが続くと思っていたのに。
 …来ないんだよな。
 あれから一週間、まだ桐間は学校に来ていない。来てくれるかもしれないと期待していた春は、苦しい日々を送っていた。

「しゅん」

 春が振り向くとそこには、浩が爽やかな笑顔で笑っている。春はぎこちなく、笑い返した。
 浩にはまだ、桐間のことは伝えていなかった。明日、明日と引き伸ばすにつれて、言えなくなってしまったのである。龍太は焦らなくてもいいと言うが、このままだったら埒があかないと春は悩んでいた。

「今日、一緒に帰らないか。寄りたい所があるんだ」

 いつもより優しい声色に、春は固まってしまう。なんだろう、この違和感は。プリントを持つ手には、嫌な汗をかく。だが、同時に好都合だと思えた。今日、言ってしまえばいいと思う。
 あたりまえのように頷くと、浩はまた優しく笑った。それが春には申し訳なく思う。
 浩と桐間を比べて、桐間が勝ったわけではない。ただ、二人は比べてはいけないのだ。どちらも失いたくない存在、だからこそ自分がこんなに葛藤しているのがわかる。春は笑うしかなかった。



‐‐‐‐‐


 授業が終わると、担任が教室に来てSHRを始める。相変わらず龍太は髪の色で怒られて、それを海飛達が笑って、担任も笑って、春もつられていた。だがいつもと同じ空気が流れているのに、どこかちがかった。なんだろう、春が後ろを向いた瞬間、教室の扉が開いた。
 春は、目を凝らす。

「あれ、もう終わっちゃったんだ。」

 残念そうにため息をする男。それはまさしく、桐間であった。扉に寄りかかり、ポケットにてを突っ込んでいる姿は幻かと、春は思う。周りはコソコソと話だし、龍太は春を見た。そして春が立って話しかけようとすると、それより先に担任が教壇から離れて、桐間の腕を掴む。そして「帰っていいぞ」と皆にいい放つと、ぴしゃり、と扉を閉めてしまった。
 皆が状況を読めず固まっていたが、誰か一人が席から立つと、一斉に立ち、帰ろうとする。もう興味はないのか全く違う話で、話し込む人すら居た。春は扉から目が離せない。





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