「もういいよ。バイト代も尽きたし、仕方ないからここにいてあげる」

 それが桐間の精一杯の言葉だったのだろう。すこし見える耳は、真っ赤に染まっている。それを聞いて、春と功士は嬉しそうにお互いをみた。桐間もどこか嬉しそうで。功士の手を引っ張ると部屋に入ろうとする。そして、一度止まり、後ろを振り返った。春としばし、目が合う。

「…春も入れば?」

 春は驚くがすぐにうなずくと、桐間の気が変わらないうちに、と靴を脱いだ。これ以上踏み入れてはならない。

 何故ならもっと、もっと、と彼に近寄りたくなる。知りたくなる。…好きになっていく。
 許される訳が無い感情。
 けれど、俺は――…。
春は思わず出そうになる本音を、胸にしまい込む。ちくたくと時を刻む針が止まれば良いのに、と思ったことくらいは許されるだろうか。





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