桐間の家の前に着くと、先ほどまで大人しかった桐間も、さすがに手を振り払った。それでも、春は手を掴んで押しながら玄関の前に立たせると、桐間はため息をつく。

「しらないからな」

 桐間自身、怖がっているようにインターホンを鳴らした。返事らしき功士の声が聞こえて、桐間の体が一気に固まる。春はその光景が微笑ましく思えた。
 音をたててドアが開くと、開けた本人の功士は目を真ん丸にして桐間を見つめた。功士の他人に振り撒くための笑顔が、ふと、消える。

「りい、や」
「…こいつが帰れってうるさいから」

 聞かれてもいない理由を、桐間は功士からそらしながら言う。春は黙ってみていたが、功士がなにも言わなくなった。気になってのぞきこめば、功士の眉間にはシワが寄っていて、それを察したのか桐間は少し後ろに下がっている。今までなにも言わなかった功士はようやく口を開いた。

「どこにいってたんだ」

 普段の功士とは似ても似つかない声で桐間に問う。桐間は顔を歪ませた。

「べっつに、関係ないじゃん」
「関係あるだろ、心配したんだぞ」
「は? 親じゃねぇくせになに言ってんの」
「俺はお前の親だ」

 功士がそう言った瞬間、桐間はこれでもかというくらい目を見開き、功士を見る。その瞳には涙さえ、浮かんでいた。春が口だそうとすると、それよりも早く、桐間が口を開く。

「! でもあんたは、あんたは母さんが好きだから俺を育ててんだろ!? 俺が居れば母さんが帰ってくるかもしれないからっ…、本当はめんどくさいとか思ってんだろ。本当は、息子なんて思ってないんだろ」


 桐間の言葉を遮る者はいなかった。春も、功士も言葉を出させないという、桐間の勢いがあったからだ。しばらくして、功士はため息をつく。それを聞いて桐間は異常に反応した。

「な、なんだよ。これが功士の本音じゃんか」
「…どこまでネガティブなんだ、お前は」
「はあ? な、なにいって!」

 桐間が顔を赤くしながら功士のことをみた瞬間、功士が桐間を抱き寄せる。桐間が離れようとしても、離せと怒鳴っても功士ははなさなかった。

「理依哉、美奈子さんなんて関係ないんだ。俺はお前がいてくれればいい。お前が居なくなったらおれ、どうすればいいんだよ。」

 功士のすがるような声に、桐間は抵抗をしなくなる。ぎゅ、と功士が桐間の頭を引き寄せた。春にはそれに桐間が泣きそうになっているのがわかる。だが、すぐに桐間は離れて、功士から目をそらすように俯いた。




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