「なんであいつ来たんだよ」

 授業が終わると、腕を組みながら、龍太が桐間を睨み付けた。浩はおい、と止めるがどうやら龍太は納得がいかない様子だ。このままではアンケートすら集める気がないんだろうな、と春はおもう。
 浩は黙って、桐間を見ると春の背中を押した。

「な、なんだよ!」
「桐間のアンケート、貰ってきてくれるか。山辺は、この通りだ」

 アンケートくらい、貰わなくても良いだろ。言おうとして、春は喉で止める。話し掛けてみたいと、一瞬でも思ったからだ。あの、どこも映していないような瞳はどこを映しているのか。あの、ぶらりと垂れ下がった頭の中は、どのような脳が入っているのか。
 春は手に力を入れながら、桐間の机に向かった。誰とでも壁を作った事は無ければ、話し掛けるのにこんなに力を入れたこともない。桐間までの距離が、妙に長く感じた。

「桐間、くん」

 “くん”なんて人に付けたのは、何年ぶりだろう。春はそれほど緊張していた。そんな春を余所に、桐間は顔を上げる。目が合うと、春は固まってしまった。刻は止まる。

「なんか用?」

 名前を呼んだのに、用件を言わない春に痺れを切らして桐間は飽きれたように聞いた。その態度に離れて見ていた龍太は近付こうとしたが、浩に両腕を持たれ遠くで桐間のもんくを浩に愚痴っている。春は、というと、焦ったように話し掛けた。

「ごめん、アンケートなんだけどさ」
「アンケート? あぁこれか。」

 桐間は眉間に皺を寄せると、机を漁りアンケートを出す。春が頷けば、桐間は自分の意志なのかわからないアンケートを書くと、春に押しつけた。

「これで良い?」

 ピアスを触りながら、春を邪魔者かのように見る。春はその目を見て、黙ってアンケートを取ると、二人の元に帰った。俯く春を見て、浩はため息をつく。
 きっと春のことだから、友達になろうとか考えていたのだろう。幼なじみなので、言葉に出さなくても分かる。あんなに拒否される春を、浩は始めて見た。落ち込んでいる、そう思った浩が春の頭を撫でようとした瞬間、浩のお腹に肘が入る。

「うっ」
「あ、手が滑った」

 春はいつもの笑顔を向けた。これは慰めるな、と遠回しに言っているようで、浩は行き場の無くなった手を引っ込める。二時間目が始まると、席に戻る春の背中は、桐間を気にしているようだった。





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