次の日、誰よりも早く来る龍太の時間に合わせて春も早い時間に登校した。案の定龍太は教室に居て、机に突っ伏している。春はそっと近付き、背中をつつく。龍太は上を向くが、春だと分かるとまた突っ伏してしまった。

「話が、あるんだ」

 裏返ってしまいそうになる声を調整して、春は精一杯に出す。それが分かったのか、龍太は渋々顔を上げるが、無表情であった。

「俺とお前、かかわりあったっけ?」

 昨日と同じ、冷たい声。昨日のように怯みそうになりながらも、春は勇気を振り絞って、龍太に言った。

「おれ桐間を諦めない、それだけ言いたかった。」

 春が言って、暫く龍太は動かなかった。だが、少したつと、龍太はは、だとか、え、だの声をあげる。そして表情がだんだん温かくなった。

「本当か!?」

 昨日とは違う威勢の良さに、春は笑いながら頷く。そして、またいつもの龍太に戻り、肩を組みながら春の頭をぐりぐりとおしつけた。

「このやろ! 昨日の夜、俺はめちゃくちゃ悩んだっつーのに」
「ごめん、本当は昨日龍太が帰ったあとに考え直したんだ。言いたかったんだけど、龍太もう居なくてさ。」
「ああ、ごめん。それは春の顔、見たくないから隠れてた」

 すっぱり、酷いことを言う龍太。ショックで胸が削れながらも、春はまじか、と答えた。うん、明るく言う龍太は春の好きな龍太に戻ってくれたようだ。
 あとは、浩である。諦めないと決めた以上、春は浩には言っておきたかった。
 浩はまだ来ていない。来たら伝えよう、思いながらまた同じ毎日が続く。
 そう思っていた春だが、

「うぉおおい、しゅん!」

 うるさいくらいに叫びながら、窓の外を指す龍太。まだ教室には誰も居ないからいいが、皆がいたら飛び跳ねていただろう。

「なんだよ」
「ああああ、あれ見ろ!」

 指されたのは、何時も通りの校門。
 あそこいつも遅刻すると、先生立っててうるさいんだよな。
 のんきに考えていると、一人の男が校門を抜ける。
 あれは、
眼鏡がずれて分からなかったが、眼鏡を掛けなおし、じっくりと見る。

「桐間!?」

 春が叫べば、龍太はなんども頷いた。どうやら見間違いではないらしい。テンションの上がっている二人に比べて、いつも通りテンションは下がっており桐間は足を引きずって歩いている。昇降口に入ったので、教室に来るだろう。入るのを見届けて、春と龍太は目を合わせた。





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