「はっそうだった、“はる”はミンナダイスキな平和主義者だもんな。いいよ、お前が良いならそれで。でも…、お前はもっと堂々としてるやつだと思ってた」
呆れたのか、それとも怒っているのか。わざと馬鹿にした口調が、龍太の態度を読ませてはくれなかった。春はなにか言おうとするが、結局何も言えなくなる。
龍太が怒ってしまった理由は、きっと桐間を諦めると言ったから。
でもなんで、止めろってあれほど言っただろ。
春が答えに悩んでいると、龍太はため息をつきながら綺麗にセットされた前髪をくしゃり、と崩す。そして、呟いた。
「全力で応援してた俺、ばかみてぇ」
ごめん、帰るわ。
龍太は春を残して店を出て行く。引き止めようと春は手が伸びるが、その手が龍太に届くことはなかった。
俺に、失望したんだ。こんな情けない俺に、呆れてしまったんだ。
頼んだばかりの龍太のハンバーガーを、片付けながら冷静に考える。春は自分でも自分が情けないということくらい分かっていた。浩にも自分のきもちにも嘘をつき、嫌いになると言った。それが自然に答えなのではないかとすら考えていた。それが逃げだと、分かっておきながら、やっぱり嫌いになったほうが良かったと、どこかで安心していたのかも知れない。
「っ、ハァー」
盛大にため息をつく。やる気が出ない、龍太が正論を言っているのに、どこか素直に頷けない春がいた。
だって、やっぱり、親友はだいじだ。
この前会ったばかりの、酷い男を好きになって友情を失うのは、馬鹿げた話だと春は思う。これが、正しいと。だが、胸のどこかに、ひっかかる。
『全力で応援してた俺、ばかみてぇ』
確かに龍太は春を拒否しなかった、何を言っても全て吐き出しても春が良いならと応援してくれた。だからと言って、なにか出来るか。ひねくれた考えしか出来ない自分、春はそんな自分に嫌気が差す。
やっぱり、無理だよ、龍太。俺は真っすぐには、
『しゅん、それはやっぱり恋だ。』
ゆっくりと、龍太の声が流れる。ああ、そうだ。龍太はおれに答えを教えてくれた。
『うん、頑張れ』
ああ、そうだ、優しく、龍太は背中を押してくれた。
なのに、おれは、それを無視して、諦める、と言ったのだ。せっかく、龍太が俺を認めてくれたのに。龍太の想いを無駄にした。
やっぱり、俺は―……!
春は走りだす。龍太に、決意を話そうとしたためだ。龍太は春とは違い、バスである。乗って行ってしまっただろうか。関係ないと、春は龍太の姿を探した。
いない、いない。どこなんだ、龍太!
時間はさほど経っていないはずなのに、龍太は周りには居なかった。バスの時刻表も見たが、バスが来るまであと10分はある。帰ったわけではなさそうだ。
近くのショッピングセンターだろうか。思考を巡らせながら、片手では携帯を龍太へと掛ける。
…出ない。
どうやら電源を切っているようだ。もう、見つかる確率は少ない。春は諦めると携帯をポケットにしまう。明日言おうと、心に決めたからだ。
迷わないよ、龍太。俺は、桐間を好きでいる。
心で呟くと、落ち着いた足取りで、駅に向かった。
ただ、胸に感じる。やっぱり俺は、桐間が好きなんだ―……。
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