「俺は一緒に居る時間とか関係ないと思うんだよ。浩と春が過ごした時間と同じには過ごせないと思うケド、二人に近付きたくて、さ」

 切なく笑う龍太に、春は頷くしかなかった。春もそうは思っているが、実際、浩と春にしか分からないものもある。春はそれを皆と共有したいと考えたが、どうやらそれは浩は良くは思っていないらしい。幼なじみとも考えのズレに少し残念じみた気持ちになる。
 春はちらり、と横を見た。いつもはどんな時でもしゃべりが止まらない龍太であるが、今は浩のことを考えているのか完全に停止してしまっている。犬の耳や尻尾が見えるなら、垂れ下がっているだろう。いつもは自信に満ちた龍太がこんな状態なのは、浩のせいである。春は浩を恨みながら、外灯で光る龍太の髪を撫でた。

「大丈夫だよ。龍太は、もう俺の親友だしな」

 春が明るく笑うと、龍太の怖い顔は一転して、釣り上がった少ししかない眉を情けなく下げた。先ほどまで兄貴肌だった龍太はどこに行ったのか、だらん、と首から上を垂らす。
 なにかまずいことを言ったか、と春が焦っていると、龍太は下を向いたまま、頭をぐしゃぐしゃにして抱えながら言った。

「ありがとう、しゅん。けどな、けど、浩には友達とすら思われてねぇし」

 よっぽどショックだったのだろう。格好よく決められていたオールバックだった髪型は崩れてしまい、春の助言すら耳には入ってなかった。むしろ春のフォローが情けに聞こえたようだ。春はなにか付け加えようとしたが、これ以上悪化させてはいけない。口を紡いだ。
 龍太は気まずそうにしている春にすぐに気付く。すると、ため息をしながら、座っているベンチを力強く叩いた。春は驚いて龍太を見ると、龍太は笑っている。

「りゅ…」
「はは、俺らしくねぇな! なんかしおらしくしてごめんな。うん、あの浩のお固い頭はどうにか解してやるか。」

 春が龍太の名前を言い掛けたところで、龍太が春に笑いかけた。その顔は吹っ切れた、とは言えないが龍太の普段の明るさが滲み出ている。
 …やっぱ龍太はすごいな、
 春は頷くと、龍太から買ってもらったもう生ぬるいコーラを飲んだ。それを見て、龍太は呟く。

「春こそ頑張らねーとな。相手は桐間だし。てかほんとにいいのか!? あいつ性格ひん曲がってんぞ」

 龍太の言葉に春は飲んでいたコーラを吐き出しそうになるが、すぐに止めて龍太を横目で睨む。

「曲がってはいない、と思うんだよ。桐間はそう見せてるだけで、中身は子供だ」

 春の言葉に、龍太は首を傾げた。春の考えは少し難しかったようで、
 とりあえずお前は桐間を好きなんだな。
 と少々、考えの足りないまとめ方をする。春も頭が弱いからか、照れたように頷くと、コーラを飲み干した。

春の心は、軽くなる。





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