「桐間って誰だ?」

 二人とも首を傾げる。見渡すが、“桐間”に当てはまる人がいないのだ。しばらく黙っていると、浩が声をあげた。

「あそこの席のやつ、かもな」

 浩が差した方を二人して見ると、そこには空の机。ほとんど使われてはいないので、端っこに寄せられていた。
 見たことないな。と春は思う。きっと初めてクラスになったし、学校にも来たことないだろう。登校拒否の方か、と冷静に考えた。

「じゃ、こいつはアンケート要らないな。」

 検討者が書いてある紙の“桐間”の文字を、龍太はバツをつける。それを、春は覗きながら、また首を傾げた。桐間桐間桐間、どこかで聞いたような…腰に手を起きながら、脳内を巡らすが答えは出てこない。うーん、と唸っていると、もう二人は目の前にはいなかった。

「ちょ、ちょっと待てこら!」
「行くって言ったのに、ボーとしてっからいけねぇんだよ。さぁ、一組から回ろうぜ」

 龍太は一組を指差す。他のクラスに入るのは、なんだか気まずいが、入らないわけにはいかないので入り、片っ端から回る。これならクラス全体に言えば早いのだが、全体に言っても出さないから一人一人に聞いているのだ。着いてくる必要もないのに、愚痴をもらしながらついてくる春と、黙ってついてくる浩に、龍太は笑った。
 一組から五組まで回り終えると、HRの予鈴が鳴り教室へと戻る。あとは六組と七組なので、昼休みに聞けば終わると龍太は喜んだ。
 普段通りにHRが終わり、一時間目が始まろうとした瞬間、ドアが開かれる。遅刻など日常茶飯事だが、今日はだいたい揃っていた。春は誰だろう、と無意識に振り向いて、目を見開く。
 彼は端っこに置かれた机をそこから動かそうとせず、そのまま大きな音を立てて座った。
 そうか、あれは先ほどまで話していた、桐間だ。一瞬にして分かる。
 地味な人かと思えば、髪は赤茶に染まり、銀色に光るピアスが目立つ。顔は整っており、美男子と言えるだろう。

「お、あれが桐間か。」

 龍太が楽しそうに呟く。まだ授業が始まってないのを良いことに、龍太は桐間に近付いた。クラスの視線が二人に集まる。

「よぉ、よろしく」

 普通ならば怖がるであろうその容姿に、桐間は怯まず無視すると、携帯へと目を向けた。その態度にクラスは騒つき、龍太の取り巻きは食って掛かろうとしたが、教師が入ってきて、席に戻る。気に食わない龍太は、睨みながら一言吐き捨てた。

「ちっ、んだよ。てめーなんか留年しちまえ」

 そのセリフを聞いて、さすがに一歩引いていた浩も、席に戻ってきた龍太の頭を叩く。龍太は不満そうに浩を見るが、浩の凄んだ表情に押し黙った。言われた本人はというと、授業に向け教科書を用意していた。どうやら龍太の言葉は、届いていないらしい。
 春は頬杖しながら、横目で桐間を見やる。桐間は引っ掛かったが、見たことのない顔に気のせいだったか、と何故か安心した。




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