桐間に言い逃げしてきた春は駅に駆け込みながら、頭を抱えていた。仲良くなりたいから話したいと思っていたのに、あれでは話したのではなくけんかである。挙げ句の果てには泣き叫び、頭を殴ったわけで、一方的な攻撃であった。
自分のノープランさに落ち込みながら券売機にパスモを突っ込み、チャージの準備をした。だが、目の前が見えない。春はまた泣いていたのだ。泣いてはいけない、さっき泣いた分泣くわけにはいかないと思っていたのに。
最悪だ最悪だ最悪だ。
でも涙は止まらなくて、眼鏡がぐしゃぐしゃに濡れる。一旦、パスモを取るとどこか誰もいないところに行こうとした。
だが、誰かに引き止められる。肩に誰かの手。ぎくり、とした。これがもし浩だったら、根掘り葉掘り聞かれてまたこの前の二の舞になる。
浩じゃありませんように、龍太とか龍太とか!
心で唱えながら春はゆっくり振りかえると、にっこり笑った龍太の顔があった。春は心の重荷が取れて二倍に泣いてしまった、
「うぇ、ど、どうしたんだしゅん!?」
「りゅーたぁ、おれっ、おれ!」
「どうしたんだよ…え、あ、そうだ! とりあえずどっか行こう! あ、公園行こ、な?」
あたふたしながらも、龍太は春の手を引くと近くの公園まで歩く。その間、前見えるか、歩けるか、なんて当たり前のことを聞くので、春は可笑しくなり少し元気が出た。
公園に着いて、龍太は春をベンチに座らせると、自動販売機でコーラを買うと春の目に当てる。
「腫れたら浩に言われちまうぜ」
確かにそうだった。今が浩で無くても明日会うわけだから、腫れてたら意味がない。心の中を読まれたようで、やはり龍太は凄いと春は思った。
虫が鳴く音だけが響く、春の泣いている声は龍太のおかげで止まっていた。何も言わずに隣に居る龍太を横目で春は見る。
龍太なら、すべて聞いてくれるかもしれない。
ちょっとした甘えと、大きな勇気であった。すべて、と言うくらいであるから桐間への気持ちもだった。本当ならば浩に相談するはずだった、なのに、浩は反対である。春はもう相談すら出来ず、押し込めているのも苦しかった。
手汗をかきながら、手を握り龍太を見る。龍太もこっちを見ていた。その目は優しくて、
「最近の春、元気ないよな。浩もだけどさ。二人に首突っ込む訳じゃねぇけど、俺にも相談してくれよ。」
な、小さく笑った龍太は春にはいつもより光って見えた。
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