暇だな、オイ。
 駅まで向かう途中、春は心の中で思った。今日は金曜日、無茶しても明日は休みであるから、本当ならば今日1日は浩と遊び倒す気でいた。だが、浩は龍太に引き止められ春は帰るように促されてしまって、遊べる状況ではない。どこかのファーストフード店に寄ろうと思うが、一人と言うこともあってか気が進まなかった。春はおとなしく、家に帰ることにする。
 やっぱり、桐間学校に来てなかったな。
 春が無意識に考えたのは、桐間のことだった。授業中も来るはずもない桐間を、心のどこかでは待っていて。馬鹿だな、と春は自分を笑った。
 功士から聞いた話によると、あの日からは桐間は家には帰ってないらしい。冷静に言ってはいたが、功士も心配しているようだった。

「桐間に会いてー」

 空を仰ぎながら、春は呟く。その言葉は春の心そのものである。
 なにがひかれるとか、なにが好きとか、なんで恋愛感情なのか分からないけど。桐間に会いたいんだ。…俺、やっぱり気持ち悪い。
 自分で考えながらも、自己嫌悪にみまわれる春は、足元をふらふらしながら歩いた。すると、目の前からは会いたくて、会いたくてたまらなかった念願の人がいる。
 桐間―…!
 春は会いたかったのに関わらず、何から言っていいかわからなかった。ただ見れれば良かったのだ。人が春の横を通り過ぎるなか、桐間は春の目の前に立つ。驚いて目を見開く春に、桐間は舌打ちした。

「金貸してくんない?」

 桐間の言葉に春は動けなくなる。話し掛けられたと思ったらそんなことだし、さらには桐間の態度は人に金を貸してもらう態度ではない。
 だいたいなんで家に帰らないでうろちょろしてんだこいつばかやろう!
 言いたいのに出てこない言葉の代わりに、普通に聞き返していた。

「なんでだよ」
「昨日バイト代切れた。明日出るんだけど今日のご飯代ないじゃん。」

 ごもっとも、財布を取り出そうとして春は頭をふる。
 こいつ、平然と騙そうとしやがって!
 誰も騙そうとしたわけではないのだが。一瞬でも納得しようとした春は、かなり頭が抜けていた。

「自分の家に帰ればいいだろ!」
「俺んち? あったっけ?」

 なんとも勘に障る言い方である。春はむきになったら負けだ、と自分に言い聞かせ、深呼吸してまた言い直した。





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