「ひろー、ちょっと良いか。」

 放課後、さっさと帰ろうとしていた浩を龍太が止めた。春もついてこようとしたが、龍太はやんわりと断り、先に帰った。
 相変わらず、春以外には壁を置いている浩に苦笑いしつつも、龍太は本題に入る。

「で、このところ浩は、どうしちゃったワケ」

 ふざけたような口調だが、確信めいた聞き方をする龍太を、浩は見やった。龍太は目をそらそうともせず、まっすぐと浩を見て答えを待っている。そんな視線に答えられないのか、浩はカバンを持ち変えると、教室から出ようとした。だが、龍太は許すはずもなく、足を掛ける。少し前屈みに転ぶ浩は困ったように龍太を見た。

「…べつに変わりはない」
「うそつけ、逃げようとしただろ。」
「早く帰らないと、電車の時間が」
「電車なんていっぱい通ってんだろ」

 浩の言った言葉一つ一つに正論で答える龍太は、いつものチャラけた様子は伺えない。それほど真剣になっていた。誰も居なくなって、二人は沈黙、教室は嫌に静かだ。
 目も合わせようとしない浩をみて、龍太はため息をついた。

「あのなぁ、俺お前と付き合い浅いけど、そんくらい分かるぜ。まぁ浩が態度に出ちゃう感じだし、しゅんともめた、が理由かな。どーせ、お前がしゅんのことに口出ししたんだろ」

 頭に手を回しながら、龍太は淡々と言う。どこかで見ていたのではないかと言うくらいの正確さだ。
 確かにそうである、浩はこのところ本調子ではなかった。その理由は、龍太が言った通り、春ともめたことで。春と桐間の関係について口出しした。
 龍太は何も気にしていないように見えるが、周囲を気にしていて共に勘が鋭い。本心をつかれ、浩はなにも言えなくなった。

「体育祭の時も思ったんだけど、しゅんは子供じゃねーんだからさぁ。放っておけよ。」

 いつもとは違う、真面目な声で龍太は言った。
 体育祭の時、異常に春を心配する浩を、龍太は気付いていた。確かに無理をし過ぎて春は倒れ、さすがに龍太は焦ったが、もう高校生である。春は体が細くて弱いが、高校男児な訳であり、倒れてもそれも経験と済まされるだろう。
 龍太が言った言葉に、浩が答えることはなかった。教室を黙って出ようとする浩に、龍太は声を掛ける。浩はゆっくりと振り向き、険悪な空気で龍太を睨んだ。

「俺としゅんのこと知らないくせに口出しするな」

 ガシャン、と大きな音を立ててドアを閉める。足をぺたぺた鳴らしながら、帰っていく音を、黙って龍太は聞いていた。
 しばらくして、あきれたように龍太はため息をつく。頭を軽くかいて、座っていたつくえから降りた。

「一緒にいた時間とか、関係ねーだろ。あの堅物め。」




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