「その様子じゃ、功士さんに世話になったな」

 春の容態はすっかり良くなって、元気良く学校へと向かう途中、浩は確かめるように言った。その言葉春は言葉を詰まらせるが、ついこの間のことだと分かり、すぐ返事をする。
 あの日、部屋へ戻り功士は少し話をして春が寝たあとでも、ずっと春に付いていた。春が起きたときには見舞いに来た浩に変わっていたが、春はそれくらい分かっていて、浩も教えてくれた。なによりも起きた時にすがすがしく、体が楽になっていたからだ。それに加えて、そのあとも春の両親が居ないときは功士が家事をして、看病までしてくれた。春は功士に感謝し切れない。

「ほんっと、小さい頃から功士さんは優しくて。大好き、あのひと!」
「ああ、いい人だ」

 小さい頃から春と浩は仲が良かったので、浩も功士と知り合いで、小学生の頃はよく世話になっていた。そのころを思い出すように、浩は小さく微笑む。
 …良かった、笑ってくれて。
 顔を綻ばせた浩を見て、春はホッとしながら思った。正直解決はしたが、桐間のことを引き摺ってくるかと思ったからだ。見舞いのときは気を遣って話題に触れないだけで、治った時には問い詰められるかと思っていた。見舞いから、今日ははじめて会ったのだが、すっかり忘れたように普通に接する浩を見て、春は嬉しく思う。

「ひろくん、今日は久しぶりに遊んじゃおうか!」
「…その前にテストが近付いてきてるぞ」

 はしゃぎながら天へ行きそうな春を引きずりおろすかのような浩の言葉に、春は顔を青ざめた。くすくすと笑いながら、浩は春の頭に手を乗っける。

「終わったら夏休みだ。教えてやるから、がんばれよ」

 まるで子供を宥めるかのような優しい声に、絶望的だった春も、素直に頷いた。なんだかんだで話しているうちに学校に着く。教室をのぞくとやはりいつもの光景で、龍太が人達に囲まれて話していた。浩と春の姿に気付いたのか、龍太は元気よく挨拶しながら近寄ってくる。

「よっ! おお、風邪治ったのか」
「まぁな。もう元気いっぱいだよ」
「そっか。良かったよ」

 にっこり笑う顔は、外見とは掛け離れているほど優しい笑みだ。春はそれを嬉しく思いながら、龍太の手をひくと、先ほど龍太がいた塊へ行き、いつものように笑いながら話の続きをする。後ろには、眉間に皺を寄せて春を見つめる浩の姿があり、龍太はそんな浩を鋭い眼差しで、ただ見ていた。




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