春は最後にはとうとう、泣き出してしまった。なきじゃくる春をみて、功士はかたまってしまう。何も言わなくなり、春が泣く声しか聞こえなくなった。
しばらくして、功士は、春の頭を撫でる。それにつられて、春は泣くのをやめた。功士はそんな春をみて、優しく、包むように微笑んだ。
「理依哉のことわかった気で居たけど…春くんが一番分かっていたみたいだね。なんか悔しいな、君はまだ、会って少ししか経っていないのに。でも、安心して」
ふざけたように言う功士は、笑っていた顔をキッと真剣にした。
「僕は何があっても、理依哉を見捨てたりはしないよ。」
ね、と言い聞かせるように言った功士は、嘘をついていないことがすぐに分かる。
春は安心したように笑うと、あ! と何かを思い出したのか、大きく口を開けた。
「すみません、風邪引いたって功士さんが知ってるってコトは、また父さんが…」
「ああ、それか。良いんだよ、清道くんは本当に…ふふ。」
父親の話をすれば、功士は少しおもしろそうな顔をする。普段冷静無口冷血そうな清道は見た目とは違い、家族をとても大事にしており、なにより息子の春からは子離れ出来そうにないくらい、過保護である。
結羽(ユウ)さんくらいがちょうどいいよ。
厳しい性格の清道の妻、結羽を思い出しながら、功士は笑った。それをみて、春は安心する。
「父に功士さんみたいな友達が居て良かった。ほら、父さん無愛想だし」
「清道くんはね〜、優しいのに表現の仕方が少し下手なんだよ。」
うんうん、と春は頷いた。手前味噌ではあるが、父は自慢であった。それを見て、功士はうらやましそうにみる。
「いいね、息子って」
せつなく笑う功士の手を、春はちいさく握った。
「居るじゃないですか、少し手のかかる子が」
功士はそんな冗談めいて言う春をみると、口元を手で押さえながらわらった。
「確かにそうだね。うん、僕にも自慢の息子が居たよ」
ちいさく握られた手は、少し強くなったようで。その手の持ち主が欲しかった笑顔は、もう少しで手に入るのかもしれない。
[*前] | [次#]