「説教しないでよね、耳が痛い」
「理依哉、ふざけるな。春くんにしたことを考えなさい」
「うっさいな…。だいたいさ、そんなやつ、足でふみにじってもいいで…」
「いい加減にしろ!」

 パンッ、乾いた音が響く。桐間は目を見開き、叩かれた頬を押さえた。
 まさか自分が叩くとは思っていなかったのだろう、殴ったことを付いたときには遅く、桐間はビニール袋を功士に投げ捨てる。

「親面すんじゃねーよ! 俺の母さんから逃げられたくせに!」

 桐間は壊れたように叫ぶと、そこから逃げるように走り去った。功士は立ちすくむだけで、追い掛けることもしない。
 春は、見てしまった。叩かれたときの桐間は今まで、見たことないような表情。悲しそうな瞳をして、くやしそうに下唇を噛み、泣きそうに功士を見ていた。今の行動だって、まるで自分を構われない子供のようで。
 今なら、間に合う。功士さんと桐間の距離はあと少しだけなのに。
 春はあと少ししかない体力で起き上がり、しゃがむ功士の腕にしがみつく。

「こうじさ…!」
「良いんだ、俺は本当の親じゃない。理依哉のことより、春くんは自分を気にしなさい」

 興奮したように言う春に、功士は優しく微笑むと、大人の笑顔で宥めた。その笑顔に、春は口が開けなくなる。
 なんて、つらそうに笑うんだろう―…。
 泣きそうになった瞬間、功士は春をお姫様抱っこの形に持ち上げると春のマンションまで向かう。春は、ただ持ち上げられているしかなかった。
 家に着くと、功士は何でもしてくれた。熱冷ましシートを張ると、すりおろした林檎を用意し、お粥もあたため、ベッドもキレイに用意する。ついでに掃除や洗濯もしてくれる始末だ。春は頭が上がらなくなった。
 春のベッドの横の椅子に腰をおろしながらお粥を口に運ぶ功士は、春をみながら頭をさげる。

「理依哉が、ごめんね。君になら、理依哉は心を開けると思って頼んだんだけど」

 悪化した、心底後悔するように、功士は言った。春は頭を横に振りながら、真っ直ぐ功士を見た。ただ、ただ

「桐間は俺になんかじゃ、心は開きません」
「なにを言ってるんだ。春くんの名前を出したら、すぐに見舞いに行くと言い出したし…」
「いいえ。」

 春は、二人を仲良く、させたいのだ。

「桐間は、あんなこと言ったけど功士さんを一番信用しています。むしろ功士さん以外信用してないと思うくらい。あと少しなんです、あと少しで功士さんとの壁はなくなる。だから…彼を見捨てないであげて」





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