「へぁ、」

 目の前で驚いたような顔をしているのは、まぎれもなく桐間であった。その顔に春も驚き、なんとも間抜けな声を上げてしまう。桐間は黙って、舌打ちだけすると、ビニール袋を春に突き出した。

「なに、これ」
「功士がオマエに。」

 中を見れば、お粥やら剥かれた林檎、さらには望んでいた熱冷ましシートまである。やはり、功士は春の天使であった。
 功士さんにはあとで土下座をするとして、桐間のやつ、めずらしい。
 春は、功士の好意より、桐間が来たことに驚く。この前話したことで、桐間が功士を普通の人よりは信用していて、慕っていることは分かった。だが、それを表面に出せない桐間。頼まれても、素直に頷くことはないだろう。
 気紛れか、まさか少しは俺に心を開いてくれたか。
 春に難しいことを考えるのは、最大の難であった。やはり考え事は良くないのか、春は足元がふらついている。
 ああもう、駄目だ。死ぬ。
 思ったころには、春はアスファルトに落ちていた。額や頬が擦れて痛むが、起き上がる力さえない。桐間と会ったことは、春にとって刺激が強過ぎた。
 いきなり倒れた春を見て、桐間は驚きもせずビニール袋を取ると、しゃがみながら春を覗く。春は、息を切らしながら桐間を見上げた。

「よく倒れるね、お前」
「あの、さ。助けてくれない、のかよ」
「…図々しい馬鹿め」

 嘲笑う顔で春を見るだけの桐間。春はそれに苛立ったが、立ち上がることもできないので何も言えなくなった。ジリジリと体を燃やす陽、桐間は熱くなったのか立ち上がると帰ろうとする。
 だが、春もここまで来たら無理矢理でも手を貸してほしかった。動かそうとする桐間の足に必死でしがみ付くと、桐間は動けなくなった。それに苛立ったのか、桐間は春を睨んだ。

「お前、まじのストーカーだろ。」
「ちがうって、起こして」
「やだね」

 桐間が足を軽く振ると、春はいとも簡単に解け、またアスファルトに突っ伏してしまう。ふん、と桐間は鼻を鳴らすとそこからまた去ろうとした。

「理依哉!」

 だが、誰かの声で桐間は止まる。振り返ると、そこには功士が居た。驚いた顔は一瞬、すぐにいつもの仏頂面に戻る。

「名前、呼ばないでよ」
「今はそんなこと関係ない、春くんに謝りなさい!」

 功士はそう言うと、勢いよく春に立ち寄り起き上がらせた。春は何が起きているのか分からなくなるが、すぐに自分が置かれている状況に気付く。
 このままじゃ功士さんと桐間がけんかする! 仲良くさせないといけないのに、悪くさせてどうする。
 止めようとするが、二人の凄みのある表情に何も言えなくなった。その間に功士は春を優しく寝かすと、言い合いをしていた。





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