起きたときには、もう朝だった。春は目をこすりながら、周りを見る。朝、だ。木漏れ日と、人の声。
くらくらする、へんなの。昨日は、帰って父さんと話して、風呂はいって…
ベッドから起きて、昨日の記憶を整理するが、風呂からの記憶が抜け落ちている。昨日は風呂から上がった覚えがない。なんだろう、春は呑気に考えているとベッドから落ちる。起き上がり、頭を押さえていると、時計が目に入った。8時50分、つまり、
「遅刻じゃんか!」
急いでTシャツを脱ぎ、ワイシャツに腕を通すと、リビングまで急ぐ。母親にもんくを言おうとしたのもつかの間、机の上のメモに動けなくなった。
『春へ
だるいでしょう? 当たり前よ、38度あるもの。
昨日はお風呂の中で水浴びて倒れてました。そのおかげで風邪、自業自得ね
私と清道は用があるから留守にするわ。自分の世話は自分ですること
学校には電話しておいたから、早く治しなさい』
相変わらず、きつい母親に苦笑いする。よく父さんも母さんと結婚したよな。
風邪、確かに咳が何度か出ているし、体はだるいどころではない。
ベッドに戻ろうとすると、ポケットに入っていた携帯が鳴った。相手は、浩である。
「はい」
『なんで休みなんだ』
怒っている浩の声。確かに昨日の今日であるから、浩のことで学校から逃げたように見える。そんなことで春が休んだら気分が悪いのだろう、浩は不機嫌であった。
「いや、風邪ひいちゃったんだよ。昨日風呂で倒れて、」
『…そうか。帰り見舞いに行く』
半信半疑な浩の声。本当は会いたくなかった、逆に風邪が好都合とさえ思えたのに。
ここで断れば、浩は傷つくだろうし、オレをもっと疑うだろう。頼んだ、素直に頷くと、浩は安心したようにじゃーなとつぶやいた。
“自分の世話は自分ですること”春は母親の言葉がくるくる周り、熱い体を起こす。
熱冷ましシート、が欲しい。きっと浩が来る頃じゃ遅いだろう。着替えしまったワイシャツに、スウェットのズボンという楽な格好に、財布をポケットに入れて外に出る。
もうすっかり夏に近い、夜とは違い朝には陽射しが刺すように感じた。元気な時には気持ち良く感じる天気は、今の春を悪化させるだけだ。自転車で行くのはいいが、倒れたら酷い有様になるだろうと考え歩きで、コンビニに行くことにする。
だが、誰かに遮られた。
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