「俺、もう帰る。ごめんな、なんか」
「別に。でも浩、俺…」
「桐間の話はしないでくれ。」
浩は春を見下ろし、優しく微笑んだ。春は怖い表情の浩も苦手だが、こんなに優しくされればいつもの浩のように感じて、頷いてしまう。浩の前で、桐間の話をしなければ良い話だ。
頷いた春を見て、満足そうに浩は微笑む。じゃーな、いつも通りに話し掛けられて春は笑いかえすしかなくて。
苦しい、なんで…
辛い思いをしても仕方ないと思った。男であんなに冷たくて、人を平気で傷付ける桐間を好きになったのだ、仕方ない。けれど、自分がそのことで親友を傷付けるなんて思わなくて。
気持ち悪く思ってないと言われて、気が軽くなった、けどあんな顔されたら…俺。
よろよろとふらつきながら、おとなしく家に帰ることにした。もう寝たい、忘れたい。千鳥足になりながらも、やっと着いた家に入ると、そこには春の父、清道が居た。
「お帰り、どうした、その顔」
「疲れただけだよ」
春の素っ気ない態度に、清道は首を傾げる。春はなにがあっても、そんな態度は取ったことはなかった。これも成長か、清道は内心落ち込んでいると、春はそうだ、と声を出した。
「功士さんに恋人がいたこと、父さん知ってたのかよ?」
春の言葉に、清道はネクタイを外す手が止まる。そして、目をそらした。
「聞いたのか」
「うん。功士さん、かわいそうだよな。桐間もさ」
「ああ、息子さんか。確かにな。」
清道はちいさく頷く。やはり清道は知っていて、桐間のことは誰もが同情する条件だった。
春は何も言わず風呂へ入る。清道はその様子を見て、話し掛けることも無かった。
「きりま…」
頭からかぶるシャワーは、妙に熱く感じる。どうも気持ちが悪い。いつもは使わない頭を使ったからか、沸騰しているのが分かった。
どうしたら、桐間を救える。春は、笑顔を見たいと言った功士の瞳が忘れられなかった。
…桐間を救って、功士さんも救わなきゃ。
春は水にした、シャワーをかぶった。
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