何分経っただろうか、春は立とうにも身体中に流れる脱力感には勝てなかった。夕日が眩しくて、俯き、目をつむる。すると、優しい声がした。

「しゅん」

 頭上からふりおりる。それは聞きたかった声であった。後悔に埋もれ何も考えていなかった春は、すぐに頭を上げる。かち、と合った目は朝から求めていた瞳であった。抱きつかんばかりに、春は飛び起きた。

「浩ー! どこ行ってたんだよー」

 全て忘れて、春は元気よく浩に話し掛ける。だが、すぐに後悔することとなった。反射的に浩を掴んだ春の手を見つめると、浩はゆっくりと手を外した。

「関係ないだろ」

 さっきとは違い、冷たい声。ゆっくりと、優しく手を退かされたのに、何故か手がヒリヒリする。
 浩が言ってることは、いつも正論だ。だから胸にぐさり、とくる。春が浩を全て知る必要はないし、浩が教える必要もない。けれど、今までこれが普通だったのだ。
 なんで、いきなりこんな態度するんだよ。
 “なんで”なんて、随分と逃げた言い回しだった。答えは、桐間のことしかなかった。今からでも遅くない。訂正して、好きじゃない、と嘘を言おう。嫌いだ、と大袈裟に言おう。けれど、喉に詰まる言葉。嘘でも桐間を嫌いとは言えない、そして親友の浩に嘘は言いたくなかった。
 どうすればいい、こんなプライド捨てたほうがいいのだろうか。力強く握られた拳に、雫が落ちた。浩はあまりにも冷静に、春を見ている。

「なんで、泣くんだ」
「ひろ、そんなこと分かってるだろ。なんで…冷たいんだ。俺が…桐間を好きだからか?」

 冷たくしないで、女々しい事を言っていることくらい自分で分かっていたが、春は止まらなかった。今まで浩が異常に優しかった分、十分に甘やかされた春にはこんな時の対応の仕方が分からなかったのだ。
 春の問いに、浩はくしゃり、と春の頭を撫でると、無言でしばらく手を置いていた。春は泣きじゃくる。優しい手なのに遠く、感じて。浩が重い口を開く。

「桐間を、嫌いになってくれ」

 耳元で囁かれる、低い、声。ぶるり、と背中から鳥肌が立つ。恐る恐る俯いていた春が顔を上げると、浩は冷たい目で春を見ていた。
 それは、春の『桐間を好きだからか』の問いにはっきりと答えている。思わず、春も言い返してしまった。

「そんなに、俺が気持ち悪ィかよ!」

 ひどい、浩を叩こうとする手が止まる。また拒否されたら、考えると無意識に触っていた浩に、触れなくなっていた。固まったままの春を見て、浩は目をふせる。





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