次の日、もちろん桐間は学校には来なかった。それは当たり前のことであり、桐間の家はもう分かっているので、春は気に掛けることなくなる。だが、今日は意外な人がいなかった。

「ひろ、今日休みか。なんか悲しいな」

 春は、浩の机に手を置きながら、つぶやく。その言葉に本当に残念そうに、龍太が返事をした。しんみりとした空気になったが、すぐに龍太が元気を出し、盛り上げたため、その場は明るく戻る。皆が楽しみながら会話を繋ぐ中、春だけは黙っていた。春は昨日浮かれていて忘れていたが、桐間と会う前、浩と話したことを思い出した。浩は勘は鋭いし、春のことはいつも見透しているから、きっと桐間への気持ちがバレてしまった。
 俺が、気持ち悪いのかな。春は机にあたまを付けながら、小さくつぶやく。帰りに浩の家に寄っていきたいのに、逃げたがる春はただの意気地なしであった。

 放課後、重い足を引きずり浩の家に向かう。今日1日、なんにも頭に入らなかった。浩の存在が、こんなに自分を元気にさせてるとは思っていなかった春は、朝より倍に増えた脱力感に塗れる。浩の家に着くと、見慣れたインターホンを鳴らした。ぱたぱた、と音がしてドアを開けたのは浩の母である。

「久しぶりです、おばさん」
「あー、しゅん、久しぶりじゃない! 最近見ないと思ったら、ノコノコと出てきて!」

 浩の母は春の頭を力強く撫でると、笑顔で歓迎してくれた。浩とは違い、元気である。春はパワフルな彼女に苦笑いした。

「あの、浩いませんか」
「浩? 学校行ったままだけど…」

 言ったまま固まり、春を見る。あの子は! とため息を吐くと、ごめんね、とだけ残して家へと入っていった。きっと、だが、浩は学校へ行くと嘘をついたのだと思う。そしてそのままどこかへ。浩は学校をサボるような奴ではないので、今日学校に来なかったのは、きっとそれほど嫌なことがあったということ。それは、

「理由、俺しかないじゃん。ばかやろー」

 春は近くにあった電信柱に頭を預けた。やる気が出なくなり、もうなにも考えられない。ただ、春のあたまにあるのは、後悔である。桐間を追い掛けたのは、後悔していない。どんどん桐間を好きになっていく自分にも、気持ち悪いほど抵抗はない。浩に気付かれるようなことを言ってしまったことだけが後悔として、ただひたすらあたまに流れる訳であった。





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