ちらり、と隣を見ると、桐間は黙って歩いている。春は今でも信じられないこの状況に、ドキドキしながらどうにか桐間の大股に歩幅を合わせた。
桐間のことだし、また走ってどこかに行くか、自分のことを酷く貶すか、など春は最低最悪なことを心得ていたので、良過ぎる展開にいつどんでん返しがくるか恐れている。だが、それと同時に胸に咲いた喜びの花は嬉しそうに揺れた。駅につき電車に乗ると、無言が痛い。なにか話さなければ、と春は話題を出した。
「ぎっ、桐間くんは一年のときに学校に来てたのか?」
出だしを噛んでしまい、恥ずかしく思っていると桐間は携帯を出して、その言葉を無視する。春は少し傷付きながらもまた同じ質問を3回繰り返すと、しつこいな、と桐間は眉間にしわをよせた。
「行ってた。」
留年ギリギリなんだろうけど、春は思いながらそうなんだ、と相づちをうった。聞きたい事がいっぱいあるのに、何から切り出そうと考えていると、桐間がじと、とこちらを見ているのが分かる。なんだと目線を合わせれば、次は桐間が質問した。
「お前は、どこで功士と会った?」
桐間から質問されると思っていなかった春は、少し遅れるが、桐間に足を蹴られておどおどしながら答える。
「功士さん、マンションの大屋さんだろ? そんで俺の父さんと歳が近くて、仲良くなったんだよ。功士さんには可愛がってもらってる」
「あいつは誰にでも、顔がいいからな」
笑いながら答えると、桐間はふん、と鼻をならした。春は、その態度にかたまってしまう。
まてまて、今の言い方的に功士さんに可愛がられてる俺に対して嫉妬してるみたいな言い方じゃないか?
春はそれについて聞こうとしたが、これ以上功士のことを言えば、もう自然には接してくれなさそうなので深くは聞かなかった。そのまま、一方的に話す形になったが、春にも希望が見えてくる。話してみたところ無視はするが、かろうじで話してくれるみたいだし、どうやら触っても平気なようだ。
良かった、と安心しながら歩いていると、もう桐間の家に着いてしまった。春は手を振りながら桐間が入って行くのを見送るが、桐間はなにも言わずに家に入っていく。
だんだん桐間のつれない態度も慣れてきた春は、桐間の中身も分かった。そして真実も。功士は勘違いしている。桐間は功士を他の人より数倍は思っている、でなければ嫉妬という感情を春に剥き出しすることはないだろう。いいものが見れたと、桐間の人間らしさが見れた今日に嬉しく思いながら自分のマンションへと帰った。
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