春は、先ほど浩に言ったことを激しく悔やんでいた。あれで浩が春の心を気付いてしまったと思ったからだ。浩は春に関してならば、勘が鋭い。そしてその好意を表している相手は、何て言ったって、人は桐間であり、そいつは男である。決して自分はゲイだとか、そういうわけではない。だが同性の相手を好きなのはまだあやふやだが確信しているわけだし、どう言い訳をしても今は嫌な目で見られる立場。なによりも親友がそんな奴だ、と知った浩を思うと、春は胸が痛んだ。
 浩なら分かってくれる、と良いように整理して、春は桐間探しに熱中した。駅から出た時にはもう桐間は居なくて、まったく分からない状況である。見つからないのは分かっていたが、今、探さなかったら見つからない気がして、春は夢中になって走って回った。だがさすがにずっと走ることは出来ずに止まる。春は体力ないな、とのんきに考えながら膝に手をおき、汗を拭いた。

「おい」

 頭から降ってきた、声に春は驚きながら、上を見る。そこには探していた相手の、桐間が鬱陶しそうにみていた。まさか、桐間が自分に声を掛けるとは春は思っていない。きっとさっき駅で会った時も、自分から逃げるために走ったのだから、完全に混乱していた。

「きり…」
「もしかして、俺を探してたとか言わないよね」

 桐間が言うと、二人して無言になる。春は桐間が言った言葉がやっと理解でき、息を切らしながら頷くと、桐間は飽きれながら春を見た。

「ストーカーだろ、お前」
「ち、違う! この前のやつ…体調よくなったかな、って」
「1週間も前なんだから、良くなってるに決まってんじゃん」

 そう桐間が鼻で笑うと、春はその態度にむかつくこともなく、そっかと納得してしまう。自分が馬鹿にしたのに、そんな態度ですら流されてしまったことが気に食わないのか、桐間は春を睨んだ。

「功士と知り合いなんだし、すぐに会えるじゃん。」
「あ、そうだった」

 桐間がまた飽きれながら言うと、春は困ったように笑う。そんな春を桐間は置いて行こうとするが、春は汗を拭きながら、桐間に近づいた。

「ま、待てよ! どっか行こう」
「は?」

 春のいきなりの誘いに、桐間は思わず間抜けな声を上げる。それを何故か良い思ったのか、春は桐間を引っ張り、どこかに向かった。桐間は何も言わずに、春に引っ張られる。
 桐間は、何故か春が触れても体が拒否しなかった。体育祭の日だってそうだった。体に誰かが触るだけでもぞわぞわと、嫌悪感でいっぱいになるのに、背中を擦られた時には逆に安心して。挙げ句の果てには、自分で春を引き留めていた。だんだん新しい気持ちが芽生える自分に、桐間は気付く。だがそれが、春を、春だけを受け入れているようで、桐間納得が行かなかった。

「帰る」
「え」

 春の細い腕など桐間は簡単に振り払うことができ、そう告げると駅へと向かう。もう自分が何処に行こうとしていたかも、春のせいで忘れた。桐間は駅に向かうと、春は桐間の隣を歩く。

「じゃ、家近いんだから一緒に帰ろう!」

 嬉しそうに笑う春を見て、桐間は声を掛けたことをただただ後悔した。





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