「おはよーう!」
「お、おはよ」

 春は学校に着くなり、朝の元気のよい挨拶をした。返事をしたのは龍太だけであり、浩は手を上げるだけだった。

「んだよ、ノリわるいなー!」
「…」

 肩を組む春を浩は無言で剥がすと、教科書を投げてきた。そういえば小テスト、思い出したときにはもう担任が入ってきていて皆して席に戻る。少しの間でも、と教科書に集中しようとすると、春の目には桐間の席が入ってしまった。
 そういえば、体育祭から来てないよな。春は教科書から目を離して、桐間を考える。体育祭からもう1週間経った。その間、桐間の姿は見ていない、むしろ桐間は学校には来ていなかった。見れるはずもない。でも春は桐間に会いたかった。少しでも桐間を知れて、それを知ったうえで話したかった。
 来ないのかな、あいつ。

「じゃー、次はこのまま小テストやるからな」

 担任が言うのが聞こえて、ハッとなり、教科書へとまた目を向け。なかなか入らない内容を頭に入れようとなる春を、浩は見つめていた。


‐‐‐‐‐‐


「しゅん、ちょっと良いか。」

 放課後、春が久しぶりにサッカー部に向かおうとしたとき、浩は声を掛ける。振り返ってずり落ちそうになった眼鏡を直しながら、春は浩に向き合った。

「ん? 何か用なの?」
「今日は一緒に帰りたい」

 春は自分の耳を疑う。浩が一緒に帰ろうなど、言うはずがないと思っているからだ。いつも浩は一人でなにもかも行おうとして、それに春がくっついていて行動を取っているからだ。その行動に、春は嬉しくなりながら頷いた。

「お前が誘うなんてな! 二度と聞けねーよ」
「いつも、言ってる」
「うそつけ」

 笑いながら言うと、浩もちいさく笑う。あれや、これや、と話しているうちに駅に着く。電車が来るのを待ちながらジュースを飲むと、浩は春を覗き込んだ。

「しゅん、最近桐間の席ばっか見てるよな」

 春はジュースを吹き出しそうになって一気に飲み込むと、気管に入ってしまい、咳き込む。飽きれながら浩が背中を擦ると、春は息を整えながら浩を見た。

「そんな訳ないだろ」
「俺はお前を見ているから知ってる。」

 浩の鋭い目付きが、春の心を射す。春は隠し事が出来ないな、と思いながら浩から目をそらした。ただジュースを体の中に流し込むと、なにも言わずに足を組む。
 浩の、真っ直ぐな目には春は何も言えなくなる。もんくだって、わがままだって。そして嘘だったら、本音を全てぶちまけてしまう。だが、今回だけはそうはいかなかった。






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