船を漕ぐように、頭を揺らしながら、春は歩いていた。暖かい気温に眠気が増す。もう限界だ、とその場に止まろうとすると、春の腕を誰かが掴んだ。

「急がなきゃ遅刻するぞ」

 飽きれたように言ったのは、幼なじみの浩だ。春は口先を尖らせながら、浩を睨む。だが、そんな春の扱いもなれている浩は、腕を離し鞄を持つと、ぐいぐいと引っ張った。

「眠いから離せこら!」
「離すかこら、歩け」
「じゃあおんぶしたまえ、戸河井くん」
「首絞められたいか」

 先に歩いていた浩は止まって春を睨むと、春は黙りこくりとぼとぼと歩く。そんな姿を浩は見て、ため息をつき、カバンからあめ玉を出した。春に差し出した。

「くれんの?」

 浩が無言で頷くと、春は目を輝かせた。あめ玉を口に入れると、浩の腹を一度殴る。浩が前屈みになると、春は笑いながら、浩の腕を引いた。

「ありがと」

 浩は腹を擦りながら、頭を掻く。眠気は覚めて上機嫌のため、春はスキップしながら学校に向かった。




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