功士が言った、話がある、は簡単に終わる話ではないな、と春はすぐに分かる。春は功士を家の中に通すと、功士も黙って部屋に入った。リビングにあるテーブルを挟み椅子に座ると、功士はなんだか気まずそうに言う。

「君、確か前島高校だったよね」

 何故それをそんなに深刻な顔で言うのか、春は分からなかった。ただ返事をするために頷くと、功士はやっぱり、と困った顔をする。

「じゃあ今日の体育祭で、理依哉と話してたのって、やっぱり春くんだったのか」

 功士の話に頭を一生懸命整理した。理依哉とは誰か、まずその相手をしらない。しかも何故それが、功士の気に掛かるのか分からなかった。いまいちな反応の春に、功士は黙っていたが、ハッとして理依哉という人物に後付けする。

「桐間理依哉、ほら、ちょっと派手な格好のさ。学校なかなか来てない子」
「ああ、桐間! あれ、桐間知っているんですか?」
「知っているというか…」

 分かる名、いや桐間の名が出て来て、春は顔を綻ばせた。その反応を見て、功士は言おうとしていた事を止めてまで驚く。

「仲、良いのかい?」
「あ、仲良くないです。したいとは思ってるんですけどね。桐間がどうかしました?」

 春はそう言いながら、今日の体育祭を思い出し、困ったように笑った。
 苦しんでいる春を、桐間は椅子に座りながらただ見ているだけで、決して手は伸ばしてはくれなかった。それを苛立てば良かったものの、春はそれが悲しく、同時にそんなことをする桐間に同情した。
 複雑な表情を浮かべる春を見ながら、功士は春の問いに答える。

「いやー、さぁ。あの子口悪いでしょ。だから春くん、迷惑しちゃったんじゃないかな、と思ってね」

 功士は出されたお茶をすすりながら、表情を曇らせた。その言い方は、桐間を良く知っているような言い方であり、春に引っ掛かるが、その前に功士の言葉を否定するために春は口を開く。

「全然。逆に構いたくなるくらいですよ。」

 上辺だけではない、春の言葉に、功士は笑みをこぼした。その功士の笑みは、子供の頃から知っている笑顔ではない。なにかある、思っていると、功士は春の目をとらえると、小さく言った。

「理依哉は、僕の息子なんだよ。」





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