体育祭は最後まで盛り上がった。閉会式の点数発表の時には皆が耳を傾け、クラスが発表されると勝ったクラスは耳が痛くなるほど喜んだ。
 春のクラスは、と言うと学年対抗リレーでは龍太が最後に追い抜き、まるでヒーローのようにたたえられたのも虚しく、7位中3位というなんとも中途半端な結果で終わった。あんなに頑張ったのに、と落ち込む春を龍太達は一生懸命慰める。1日燃えた体育祭はそうやって、幕を閉じた。

 春と浩はお茶を回し飲みしながら、朝に来た道を帰る。だが朝とは違い、かなりの疲労が顔から伺えた。

「じゃーな」
「おう、また学校でな」

 春を見ながら、浩は微笑みを返して、二人分かれる。春は一人歩きながら、考え事をしていた。
 桐間のやつ、なんで龍太が触ったら、あんなにびびってたんだろう。ただたんに龍太が怖いからって訳じゃ無さそうだし…。
 考え事とは桐間のことだった。最近、春は桐間のことばかり考えていて、それは春に言わせればなんであんな奴を気にしてしまうんだ、と納得がいかないらしく、頭から抹消することばかり考える。やっとのことでマンションに着くと、だらだらと階段をあがった。
 210、自分の部屋を見つけ、入ろうとすると、ガチャ、と音がして春は冷や汗をかく。そういえば、朝に帰りは遅くなるから鍵を持て、と親に言われた。

「嘘だろー…」

 充分限界である春は、しゃがむと頭をぶらりと垂らす。お腹が減った、お風呂に入りたい、早く寝たい。どんどん出てくる欲は、いつにまして邪魔である。

「春くん」

 もうここで寝てしまおうとかばんを下に下ろすと、いきなり声を掛けられた。誰だ、と振り返ると、そこには四十代後半の男性が立っていた。春はその男性を見て立ち上がると、張りつくように抱きつく。

「功士さぁん、助かりました! スペアキーください、スペアキー!」

 そう、この功士(コウジ)と言う名の男性はここのマンションのオーナーであった。春とは小さい頃からの付き合いで、いまも可愛がって貰っている。
 功士は優しい笑みを浮かべると、春の部屋のスペアキーを出すと扉を開けた。

「実はね、清道(キヨミチ)くんから頼まれたんだよ。春くんが鍵を忘れたから、帰ってきたら開けてくれないかってね」

 優しいお父さんだね、と笑う功士。実際優しいのは、そんな頼みを聞く功士なのだが。春は風呂、飯、睡眠、全ての欲が満たされることが嬉しくなった。

「ありがとうございます!」

 るんるん気分でお礼を言いながら部屋に入ろうとドアノブに手を掛ければ、それは功士によって止められる。首を傾げながら功士を見ると、功士は少し困った顔をした。

「春くん、話があるんだ」




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