宥めるように春が浩の名前を呼んでも、浩は止まらなかった。浩の言葉に、春はなにも言えなくなってしまう。そして春も耐えられなくなり、浩に掴み掛かった。

「なんでお前に頼んないといけないんだよ。言ってること訳わかんないぞ、お前」
「簡単だよ。」

 春の腕を、浩が掴み、視線が絡み合う。

「俺はお前を守りたいから。お前に頼られたいんだよ」

 いつもは口下手なくせに、いきなり饒舌になった浩に、春は言葉が出せなくなった。浩は春を見ると、タオルを取り、水に濡らすと春の頭に乗せる。だが春はそのタオルを浩に擦り付けると、キッと睨んだ。吹っ切れたように、春は浩目がけて叫ぶ。

「なんでお前はいつも心配ばっかすんだよ! 俺はお前と一緒だ。確かに体型とか性格とか全然ちげーけど、そんな女みたいに扱うなよ。俺はお前に追い付きたいのに、そんなんじゃいつまで経っても…」

 追い付けない、言おうとすると春は言葉を詰まらせた。今まで隠していた気持ちを全部言ってしまったと桐間のときのように気付いた頃には遅い。浩は驚いた顔をして、春を見ていた。
 やっちまったー! 春は心の中で頭を抱える。慌てながら浩を見る春に、浩は頭を整理したのか腕を組んだ。

「そんなことのために、今まで頼らなかったのか」

 浩の声は、冷静である。そんなところもこっそり憧れていた春は、恥ずかしくなりながら、浩を見ると。浩は、笑っていた。

「ひ…」
「俺はしゅんのそういう努力家なとこが憧れる」
「え?」

 だから、と浩は春を見る。

「俺もお前に憧れていたんだよ。」

 浩に擦り付けられたタオルを、春に返すと、また頭に乗せた。春はそれを見て、ぎゅ、とタオルを握る。そして浩の足を蹴ると、帰るぞ、とだけ言った。

「しゅん?」
「お前は一生、俺の憧れだよ。」

 照れたように言う春は、足早に席へと戻る。照れ臭そうな春の背中を見て、切なく、目線をそらした。

「憧れ、か」

 春には届いていないその言葉は、まるで“憧れ”だけでは不服なようで。春を追い掛けて走ると、さっきのお返しとばかりに足を蹴ると、春は膝から崩れ落ちる。ふざけて笑う二人は、いつもの二人だった。





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