「桐間にはもう近寄んな。あいつはサイテーな奴だ。」

 人差し指で春を指しながら、龍太は強い口調で言った。春は少し間を開けたが、冷たいペットボトルを頭に付けながら、ちいさく頷く。それを見て龍太は安心したのか、グランドへと走って行った。

「う、」

 龍太を見送ったあと、春は吐き気に襲われる。春はふらふらしながら、男子トイレに向かった。幸いトイレは近い上に、皆して一番盛り上がるリレーを見に行ってるからか、誰も居ない。もどそうとするが、なかなか出ない。嘔吐感は変わらず、暫くトイレにこもっていようと思った。
 外では盛り上がっているため、黄色い声援が飛び交っている。楽しそうだな、と春は考えていると、誰かがトイレに入ってきた。春は口を押さえながら、振り返ると、そこには、また桐間が居た。
 またからかいに来たのかと思えば、桐間も具合悪そうにしている。声掛ける前に、トイレに駆け込み、一気に戻した。それを見て春は自分が気分が悪いことを忘れ、桐間に駆け寄る。

「おい、大丈夫かよ!?」

 春は背中を擦りながら、桐間を心配そうに見た。桐間はその行為がよほど嫌なのか、吐きながらも春の手を振り払おうとする。だが、春は離れなかった。

「嫌がってる場合じゃない、ばかか! ほら、全部出せ」

 春の言葉に、桐間の手は止まる。そしておとなしく春の言うとおりにしていた。
 一通りおわると、桐間は何も言わず水道に向かい口をゆすぐと、自分の体操着で口を拭く。それを見て、春は安心しながら去ろうとした。だが、それはできかった。桐間が春の腕を掴んだのだ。

「な、なんだよ?」
「……」

 自分でつかんだのに、何も話さないで無言な桐間に春がおずおずと尋ねる。そして桐間はその手を離すと、何事もなかったかのようにトイレから出ていった。

「なんだよ、へんなの」

 春はもう遠くなった桐間をみて呟く。それと同時に嘔吐感がなくなったことに気付き、タオルを水に濡らすと、頭におさえながら外に出て座り込む。ちょうどいい6月の風が、気持ち良かった。和んでいると、いきなり携帯が鳴る。このこれは電話の着信音だ、と気付き春は急いで出た。

「はい」
『今どこ』

 そう言ったのは、声でいうと浩で、その声は怒っている。春は意味も分からないまま、自分の場所を伝えると、浩は何分とたたずにやってきた。
 荒い息遣いを見るかぎり、全速力で来たらしい。いつもより増して仏頂面の浩は、春の脇を持って無理矢理立ち上がらせる。

「ひろ、」
「なんで山辺は良くて、俺はダメなんだ! なんで弱いとこ見せてくれないんだよ。もっと頼れ!」





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