「そんなんじゃない!」
「じゃあ何。妬みだろ、どー考えたって」
挑発するような口調に、春は熱く返したが、また冷たく締められてしまった。桐間は足を組みながら、のんきに水を飲んでいる。桐間は学校に来ていなかったため、個人競技には出ていない。来る必要は無いし、ましてや学校を嫌っているのに、失礼だが来ている意味が春に分からない。
桐間を見ると、小さくつぶやいた。
「浩は、俺の目標だ。俺は浩に少しでも近付きたいんだよ、憧れなんだ」
春は言った後に、後悔する。色々考えた春の頭はパンクしてしまい、誰にも言いたくなかった心情を話してしまったのだ。
恥ずかしくなって、立とうとすると、いきなり立ち眩みに合う。瞬間、地面に倒れこんだ。春は息苦しくなる。それを桐間はただ見ていた。
「憧れなんてさ、捨てろよ。人間なんて憧れに近寄れない運命なんだからさ」
呟きながら手も差し延べないで、自分の膝に頬杖をつき、春を見下す。だがその目は少し、潤んでいた。春はおかしく思いながらも、自力で立ち上がろうとしたが、なかなか立てない。
「しゅん!」
春の名前を呼んだのは、龍太だった。そこに通り掛かった龍太は春を見て、慌てて駆け寄り、起こす。春を椅子に座らせると、それをただ見ているだけだった桐間を見て、龍太はついに掴み掛かった。
「てめぇ、ふざけん…」
「! 触るなっ!」
だが、龍太が触れた瞬間、桐間は龍太を振り払う。その行動は龍太のことを恐がっていると言うよりも、“人の存在”に恐がっていた。あまりの拒絶に龍太も引いてしまう。
桐間は少しずつ後退るとそこから逃げ、どこかへと去る。それを見送ると、龍太はすぐに春に駆け寄った。
「おい、大丈夫か!?」
「平気だよ、なに怖い顔してんだ。ばか」
春の笑っている顔が引きつる。龍太は春の頭をぐりぐりと撫でた。
「お前こそばかだっつの。お前に代わりに俺が出るわ、いいよな?」
「でも…」
「俺がヒーローになっても憎むなよ?」
冗談に笑い飛ばす龍太の服を、春は掴む。
俺、情けねぇ。春は力を入れて、ふらつく足を無理矢理立たせると、龍太にありがとうという。すると龍太はまた頭をいじると、グランドに向かおうとした。だが、すぐになにか思い出したのか、振り向く。
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