「「つつつ、付き合っただとぉ!?」」

 全く同じ言葉で驚きの声を上げた龍太と浩に、春は頷きながら返事をした。周りが一気にこちらを見るが、龍太がにらめば一斉に目線は反らされる。そして落ち着いてから二人は確かめるように春の隣に居る桐間を見るが、桐間も平然としながら歩いていた。龍太と浩は目を合わす。
 二人は始業式が終わったあと、具合が悪いと言っていた春を心配して保健室まで迎えに行ったが、そこには付いていった桐間も、春本人もいなかった。もう教室に戻ったかと思い、戻れば案の定春と桐間はいたのだが、分かれた時と雰囲気が違うし、なにより春の頬に殴られた痕さえある。学校も終わりいつものように門まで四人で帰っているときに、気になった龍太がどうしたのか、と聞けば春は付き合ったと言ったので龍太と浩は仰天してしまったというわけだ。

「おいおい、桐間くーん、まじかよー! ついにデレが出たのかこのやろー!」
「うるせー、死ね」
「複雑だ…、まるで娘を嫁にやるようだな」
「ははは、なんだそれ」

 少し前までは桐間を嫌っていた龍太と春を好きで空回っていた浩は、なんだかんだ言いながらも嬉しそうである。桐間も龍太に腕をかけられながら相変わらず毒舌だが、その顔は笑っていた。三人につられて、春も思わず笑う。
 そこで龍太は何に気付いたのか、ハッとして浩に耳打ちすると、浩は苦笑いしながら此方を見た。大きく息を吸って一言。

「「おめでとう、末永くお幸せに!」」

 そこまで言うと、龍太はいたずらっぽく、浩は照れながら二人でいい逃げしていく。遠くなって龍太が桐間に中指を立てながら走っていくのが見える。桐間が殺すぞ! と叫ぶときゃー、と言いながら逃げていった。
 春は賑やかだな、と思いながら歩き隣を見ると、桐間がくつくつと喉で笑っているのが見える。おかしくなったのか、と焦ると桐間は春を見た。

「ほんっと、お前は良い友達持ったね」

 まるで他人事のように笑う桐間に、春は頭突きした。なにかと見れば、春は頬を膨らましながら桐間を言う。

「桐間の友達でもあるんだからな!」

 桐間は目を大きく開けるが、直ぐに目は細められた。そして赤く腫れた春の頬を慰めるかのように撫でながら、そうだった、と笑う。それがあまりにも優しくて、目の前に居るのは桐間か、と疑いたくなるほどだった。
 だが、幸せな空気も束の間。桐間はいきなり小さくなった、というよりがくん、と膝から落ちていってしまったのである。なにかと後ろを見れば、得意気に口元を弛めた木葉が、長い足を曲げながら立っていた。

「ってめぇえ!」
「どんな時も油断大敵ですよ、先輩。春さんを泣かしたら、俺が迎えに行っちゃいますから。」
「はぁあ!? ふざけたこと言ってんじゃねぇ! ってお前、その指、俺のことなめてんだろ!!」

 きっと二人が醸し出していたラブラブな空気で、付き合っていることがわかったのであろう。木葉が親指を下にしながら桐間に挑発する。桐間もその挑発に乗り、言い合いが始まるが、木葉はちらり、と春を見た。

「春さん」
「ん?」
「貴方が幸せになって良かったです。これからも貴方が幸せでいられますように」

 優しい声で呟くと春に近寄り、春の手を自分の手に乗せながら、木葉は微笑む。それも見ながら固まる桐間に、これでもかと舌を出すと、木葉は手を振りながら去っていった。やはりどこかの王子なのではないかと思うくらいの演出であったが、春は素直に嬉しい。
 春もお礼を言いながら手を振るが、桐間は隣にいながらどこか不満げであった。そんな桐間を見て面白く思いながらも、また二人で歩き出す。すると、桐間は周りを何度も見直して誰もいないと納得してから、春の左手を握った。春はおどろきながら桐間を見る。

「な、なに」
「なにって恋人なんだからいいだろ」

 そう言われると照れ臭くなる春だが、いつも照れるはずの桐間は気にしていなかった。ずるい、と思いながらなにか仕返しができないかと考えていると、春は良いことを思い付く。

「……や」
「え?」
「理依哉。これから、よろしく。」

 桐間は止まって、ボッと熱が顔に集まった。それを見て春は面白そうに思うが、さすがに自分も恥ずかしくて苦笑いしかできなくなる。
 そして、なにも話さないまま、また歩き出した。暫く歩くと、桐間の手がするりと春の掌から抜けていく。からかいすぎたか、と春が心配そうに桐間を見れば、桐間はいきなり片足をアスファルトに預けしゃがみこんだ。なにをしだすのかと思っていると、春の左手をまた取る。そして左手に口元を近づけ、春を見上げた。

「っ、きり」
「理依哉じゃねーのか?」

 なにをからかっているんだ、と言おうとしたが、桐間の情熱的な瞳が真剣なのだと分かる。春は息をのんだ。

「理依哉」

 すると、桐間は満足したように微笑みながら、なにかを意味するように左手の薬指に口づけた。春はどきどきしながら、その行為を見届けると、桐間は首を傾げながら言った。

「俺は春を一生離さねぇ、…だから春も離れるなよ?」

 桐間が春の手を撫でながら言うと、春は嬉しそうに何回も頷いた。桐間は答えを分かっていたが、やはり改めて良い答えを聞いて安心しながら春の手を離す。しおらしい桐間の髪をくしゃりと撫でると、春はにかっと笑った。

「絶対、離すなよ!」

 春が続けて拒否権はない、と言うと、桐間はあほと可笑しそうに返す。さて、と桐間はしゃがんだ状態から立ち上がろうとしたが、その隙をついて春が桐間に抱きついた。中途半端な体制を取っていた桐間が春を支えきれるはずもなく、そのままアスファルトへと押し倒されるが、桐間も半分呆れていたが、倒れたまま抱き締め返す。そして二人は確かめるようにおでこを合わせて呟いた。

「「愛してる」」










 熱くなる感情、高鳴る鼓動、暖かい掌、隣には幸せにしてくれる君、笑う僕、素晴らしい広がる世界。
 嗚呼全てが新しい。
 さあ今から始まる僕と君の素敵な物語への挨拶をしよう。


『はじめまして』















―完―










[*前] | [次#]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -