「あのさ、俺、殴ったくらいじゃ桐間を諦められないし、キスも忘れられない。好きなんだ、ごめん。だからさ、お前も俺を殴ってなかったことにしてくれ! 頼む!」

 両手を勢いよくそえると、まるで仏様に拝むかのように桐間に懇願する。何度も頭を下げる春を目の前にして、桐間の口は大きく開いた。

「…好きって、お前まじであのガキと付き合ってないの?」
「だから誤解なんだって! 車が来たのを、木葉が引っ張って助けてくれただけで」

 半泣きになりながら訴える春は、嘘はいっていないことが伝わる。桐間は拍子抜けだった。
 そしてその謝りかたを見ながら、あれだけ自分に怒っておいて、この様はなんだと段々ムカついてくる。色々考えた自分が馬鹿らしく思えた。考えた時間を返せと言いたくなる。だが、それでも桐間としては、それで胸に引っ掛かっていたことが解決して良かったという方が強かったらしく、いつの間にか怒りは消えていた。やはり俺を好きなのか、と高飛車になってみたりもする。
 春はまだ手を添えてお願いします、と続けているが、桐間は反応しなくなった。やはりあんなことをしておいて都合が良いか、と残念に思いながら春は手を下げていく。
 刹那、頬に衝撃が襲った。
 殴られたと気付くには、少々時間をいる。頬を押さえながら桐間を見ると、桐間は頬を指した。

「手加減してないし、腫れるかもね。」

 清々しい顔をしながら、にやり、と笑う。じわじわと来る痛みに本当に手加減無しだと感じて悪魔だとは思うが、これで相殺されたのだと思うと嬉しかった。
 だが、同時に良かったのかと思う。殴ったということは、俺が言った約束はなかったことになるということであったからだ。

「い、いのか? これでまだ、俺、お前を好きでいるぞ」
「ああ、勝手にしな」
「キスも忘れないからな!」
「それは忘れて」
「っ、それ、言おうと思ったけど酷すぎるぞ!」

 電話で突き放されたひどい言葉。今もまた言われてしまったが、今なら反論出来た。思う存分責めてやろうと、春が体を前につきだして桐間の言葉に噛みつくと、桐間も何かを思い出したように春に近付く。
 押しに負け、離れようとする春に、そうはさせるかと桐間は制圧した。

「続きを聞け、続きを。何を勘違いしたか知らないけど、続きも聞かねーで電話切りやがって!」

 え、と聞き直す春に満足そうに笑っていた桐間の顔は一気に歪められる。まさか、覚えていないのか、と桐間は春を睨んだ。
 あの時はショックだったため、直ぐに電話を切ってしまったが、たしかに、何か言い掛けていた…気がする。耐えきれなかったのだから仕方なかった。
 だがこんなこと言っても桐間が許してくれるはずもないので、春は聞き直すことにする。

「で、続きはなんだったの」




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