その時、桐間が春を支えたのである。春が顔を見上げると、桐間は心底不機嫌そうに口パクで付いてこいと言った。ここで嫌だなんて言えないし、話がしたかったので従う。

「え、ああ。じゃあ行ってくる…」
「おう。始業式だけだしな。桐間、ちゃんと支えてやれ。」
「言われなくてもわかってるよ」

 では、と保健室に行くことにすると、浩が口うるさく桐間に注意をした。その注意をうざったく受け流しながら、桐間は春を引っ張りながら普段より遅く歩く。
 階段を降りながら、二人は無言であった。どうやって切り出そうか、二人とも考えていたからかもしれない。そして、先に口を開いたのは桐間であった。

「あいつらも気まずくさせないように、と思って俺が気使ったのに。なんなの、お前…」

 呆れたように桐間は言う。その言いぐさや、二人を気にした桐間の行動にはびっくりしたが、からかっている余裕など春にはなかった。

「ごめん…」

 素直に謝る春に、桐間はきつく言えなくなり、また黙りこんでしまった。階段はもう全て降りて、ここは一階だ。もちろん、春は具合が悪いわけではないので行く場所は保健室ではない。桐間は春の腕を引っ張ると、靴をはいた。

「な、なんだよ」
「言いたいことあんだろ。ここだと見回り来るから」

 春が言いたげに桐間を見ていたのを気づいていたのだろう。それだけを言うと、春を掴んでいた腕を離し、外に出た。9月といってもまだ暑苦しく、日陰を探して適当に座る。
 また、二人は黙った。だが今度は、春が話す番であるから、桐間は話さないでいる。どうやら、春が話すまで口は開かないようだ。春は頭で言葉を選びながら、やっとの思いで、一言言う。

「俺を殴ってくれ!」

 春はそう叫びながら、桐間に顔を向けた。いつでも殴られてもいいように、ご丁寧に歯は食いしばられている。だが桐間ははいそうですか、と殴れるはずもなく止まってしまった。春に言われるであろうといっぱい考えてはいたが、その中にこんな言葉は入っていなかったためフリーズしたのだ。
 だが、ここで返さなければ話は続かない。桐間は咳払いしながら、春を見返した。

「なんでそうなった」
「いや、だから、この前お前を殴っただろ。」
「うん、でもそれでお前はケジメつけたんだろ。なら別にいいよ。ムカつくけど」
「ムカついてんのかよ。」
「もちろん」

 春はこっちもだわ! と言いたいところを、ややこしくなるのでグッと押さえる。そして、腕を組む桐間を見ながら、春は言った。




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