「しゅん、出番だぞ」

 誰かが春を呼ぶ。最初は気のせいだと思ったが、また呼ばれるので振り向くと、プログラムを渡された。渡したのは、龍太の友達の、海飛(カイト)である。

「あ、ありがと」
「四回も出んの?」
「おう、頼まれちゃって」

 無茶だな、と海飛は顔をしかめる。確かに無茶であり、春自身も体力が持つか分からなかった。個人競技が四つあるだけで、団体競技は三つ以上ある。なぜこんなに出るかというと退学が多い春のクラスは、一人が何回もでなければならなかった。

「何かやろうか?」
「いーって、いーって! 俺の活躍見てろよ」

 海飛が心配しながら声を掛けると、春はおどけてみせる。その姿に海飛は安心したように笑い、がんばれよ、とその場から去った。
 今の二人の話を聞いて、知らなかった浩は春の腕をつよくつかむ。

「一つくらい、俺が代わりに出る」
「はぁ? なにいってんだよ。お前だけ目立つつもりか」

 春は浩を軽く腹を殴る。その手は、肉より骨の方が多いのではないかと思うくらい細い。浩は黙ると、手を払った。それを見て春は笑うと、プログラムを見ながらまたグランドに向かう。浩はただ見ているしか無かった。


 さまざまな種目が終わり、体育祭も終盤になったころ、春はもう限界だった。屈みながら膝を掴むと、体操着を袖を肩までめくり、汗を拭く。

「だから代わるって言っただろ」

 浩の声に春は驚き、肩が飛び跳ねた。後ろを振り向くと、飽きれたように見ている浩が居て、春は睨む。そこから去ろうとして、浩はそれを阻んだ。

「退け」
「そんな細い足でもう一回リレーなんてしたら、折れんぞ」

 浩の言葉に春はカッとなり胸ぐらを掴み、今までにないくらいに睨むが、浩には効いてはいない。無駄だと気付いた春は手を離すと、舌打ちした。

「言っただろ。俺は、お前には頼りたくない」
「だから、なんでだよ」
「絶対言わない」

 言うと春は浩を越す。浩は追い掛けてはこなかった。次は団体競技であり、春は黙ってそれに参加する。競技は綱引きであり、少し手を抜けば良いもの本気の春は、綱を引っ張った時に前が歪んだ。周りが騒ぐ声が遠くに感じる。
 やばい、力を抜くといつの間にか勝っていて。春はいそいそと自分の席へと帰っていく。座った瞬間、鼻で笑う声が聞こえた。後ろを向けば、そこには桐間がいる。

「きりまく…」
「辛いなら意地張ってないでさぁー。一緒にいるあのでかいやつに代わってって頼めばいいじゃん。またあいつだけモテんのが嫌なの?」

 汗を拭く手が止まった。きっとさっきの話を聞いていたのだろうか。桐間はそう言うと、まるで春を醜い者を見るかのように蔑んだ目で見た。桐間のその態度には、さすがの春も頭にくる。





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