春はソファーに腰を掛けながら、テレビのチャンネルをたんたんと変えるという作業をしていた。隣に座っている清道は春の不可思議な行動に、見たいテレビが見れないで困っているのだが、可愛い息子のしていることにけちをつけられないでいる。やっている本人は、というと、テレビなど関係ない。
「やかましい!」
「いだっ」
ひたすら切り替わる音声に痺れを切らした結羽が、一発入れると春の行動は止まった。清道はテレビが見れるようになって嬉しいのではあるが、春が痛がっているのを見て可哀想に思い、テレビを見ている場合ではないと消す。
春は殴られた後頭部を撫でながら結羽を見るが、結羽はため息をつきながら、春が食べ散らかしたポテトチップスのカスを片付けた。
「あんた何悩んでるかわからないけど、早く風呂入って寝なさい。そしたら忘れるわ」
「そっ、そんな簡単に忘れられる出来事じゃねーもん!」
「お母様に口答えしない!」
すぱん、と大きな音をたててもう一度叩くと、春は言い返すことも出来ずに立ち上がって風呂場へと向かう。清道は春を気にしているが、結羽の怒りの矛先は清道に向かった。
「ねぇ、あなた。甘えさせないで」
「甘えさせてなんか…」
「どこが。ほらほら、見たがってたドラマ始まってるじゃないの」
結羽がテレビをつけると、清道は驚いた顔して結羽とテレビを交互に見る。結羽は綺麗に笑うと、そんな顔に似合わず中指をたてた。
「何年一緒にいると思ってるの、なめてんじゃないわよ」
‐‐‐‐‐
シャワーを浴び終わってベッドに寝転がる。
合宿後の衝撃的な出来事は、もう6日も前の出来事になっていたが、春はまだ引きずっていた。殴ったことは後悔はしていない、桐間はそれ相等なことをしたからである。だが後悔していたのは、殴ったあとに“これでキスだろうか、お前のことだって忘れてやる”と宣言してしまったことだ。キスはなんとか胸の内にしまうことは可能だが、桐間を忘れることはできない。
いまさら嫌いになれるか、こんちくしょー!!
あれだけ衝突をした上に、やっと仲良くなれていいところを知れたというのに嫌いになれるはずがなかった。目の前にある枕を殴ると、自分がいかに軽率な行動をしたかが分かる。なぜならばこれで桐間を嫌いにならなくては、春は嘘つきになるからだ。
「よ、よし決めた…」
春は胸に弱々しい決心を抱く。
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