悶々と考える桐間に、春はゆっくりと告げる。その言葉に桐間と木葉が春の方を向くと、唇を噛み締めて桐間の服をつかんでいた。桐間はそんな春に、焦り目を向ける。

「おい」
「桐間は俺がどうすれば満足なんだよ。キス忘れろって言ったと思ったら、迎えに来た? しまいにはただ引き寄せただけなのに抱き合ってるとか付き合ってるとか怒りだして…。だいたい木葉は後輩だ」
「はぁ? 言い訳かよ」「じゃあもし付き合ってたとしても桐間には関係ないだろ、もうお願いだから口出ししてくんな!」

 春は今までにないくらいの声で叫んだ。だが懲りずに桐間が口を開こうとするのを見て、春は桐間をグーで殴り黙らせる。桐間はたまらず、反動で後ろに倒れた。そのことから春が本気で桐間を殴ったのが分かる。

「なにしやがんだ…!」
「それでキスだろうか、お前のことだって忘れてやるよ。…ばーか。」

 春は殴った右手を痛そうに揺らしながら笑った。そんな余裕に笑う春に怒りで起き上がる桐間の方は一度も見ずに、春は木葉の手を持つ。桐間は何も言えずに頬をおさえ、遠ざかる春の後ろ姿を見ているしかなかった。
 木葉の手を握り先頭をきる春に、ついていくしかない木葉は、自分の春の手を握る右手を見た。その手の甲は赤みおびている。

「はるさん、こっち駅ですよ」
「お前帰れ、送らなくていい」
「危ないです」
「いいから帰れ」

 春が怒っているのは顔を見なくったって分かった。木葉はそれ以上なにも言わない。言えばまた春を傷付けてしまう気がしたからだ。
 その変わりに、春が口を開いた。

「…こんなことあったけど、俺は桐間を好きなままだよ。お前の気持ちは、受け取れないから」

 もう、春の同情や悲しみから漬け込むなんてことはできないだろう。木葉は心のなかで笑いながら、あんな男どこがいいんだ、と何度も思った。
 そのまま一言も話さずに駅につく。春はさっきのことは無かったかのように笑顔に戻った。またな、といつものように笑う。木葉は、泣きそうになった。

「想ってちゃ、だめですか。」

 木葉の言葉に、春のふる手が止まった。木葉の声は震えている。春は一度考えるような素振りを見せたが、答えは決まっていた。何を言われるのかくらい、木葉も分かる。だが、少しの可能性でもすがりたいほど、木葉は春を想いたかった。だが、春はそれを否定するようにまた笑う。

「嬉しいけど、それじゃ木葉が辛いだけだ。…おやすみ」

 生ぬるい夏の風が、二人の頬を撫でた。

「おやすみなさい」





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