桐間がブツブツと問い掛けながら、春に近寄っていった。春は完全に桐間の話など聞いていない、ただ桐間の存在が恐怖なのである。桐間から逃げようと反対方向へ走り出した春は、手を掴まれて逃げることはできなくなった。春の手を掴んでいるのは桐間、ではなくすぐ隣に居た木葉だ。
 春は木葉を睨もうとしたが、木葉の目は春には向いていない。真っ直ぐと、桐間をにらんでいた。それを見て離せと言いたい声は喉の奥で止まってしまう。話すのは許されない気がした。木葉は、王子とはかけ離れた勢いで桐間を見る。

「貴方…春さんを傷付けておきながら、よく嫉妬なんて出来ますね」
「はぁ? 傷つけ…? つーかお前だれ?」
「なんで春さんみたいに素晴らしい人が貴方を好きになったのか分からない!」
「…なんだって?」
「貴方は自分勝手すぎる、春さんが混乱するのも分かりますよ。もう少し大人になるべきだ。」
「っ、黙れガキ!」
「黙るのはあんただよ、はるさんがあんたから逃げるなんてよっぽどだ。なにしたんだ!」
「いきなり出てきた奴になにがわかる!!」

 言い合いはヒートアップして、ついに桐間は木葉に掴み掛かった。怯むような桐間の顔の歪みにも怖じけず、木葉は上から桐間を見下ろす。二人とも退く気はないらしい。
 春は今にも殴り合いを始めそうな二人をみてこれはやばい、と桐間に立ち寄った。

「桐間、手離せっ」
「うるせぇ! てめえはやっぱりこいつの味方すんのか! 付き合ってんのか?!」
「はぁなに言ってんだ、落ち着けっていってんの! だいたい、木葉はただの後輩…」
「はっ、抱き合ってた奴が言う言葉じゃねーな!」

 桐間の怒りは間に入り必死になって二人の距離を引き裂こうとする春に向く。桐間が春に言いたいことはいっぱいあった。なのに、と桐間は木葉の胸ぐらを持つ力を込める。だがそんな春を考える桐間とは相反して、桐間が木葉に力を加える度、春の瞳は木葉を心配して不安の色は濃くなった。
 くそ、こんなことがしたくてここに来たわけじゃないのに!
 桐間は歯軋りする。そうだ、ただ春を迎えに来たわけではない。一方的切られた電話のちょっとひねくれた文句をいってから、続きを言うはずだった。なのに、木葉のせいで桐間の計画は台無しである。しかも木葉は桐間に春を傷つけた、などと言った。桐間にはその言葉の意味がわからないでいる。
 ただ、分かるのは、今春の意識のなかにあるのは憎い木葉のことだけだった。
 迎えに来てやったのに。言ってやろうと思ったのに。

「…もういいよ。」




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