辛いようで楽しかった合宿は、三日ほどで終わった。その間木葉は春にちょっかいを出してきたが、堪忍袋の緒が切れた春が木葉の腹に一回蹴りを入れて見事に鎮圧。だが、木葉はそれでも春についてくるので、仕方なくあと10分で家に着くであろう帰りの電車も、二人で座っていた。

「お前の駅、過ぎたけど」
「送ります。一秒でも長く、貴方といたいので」
「あのなぁ…」

 春があきれたように言うと、木葉はとぼけた顔をする。木葉の紳士的な行動には弱いことは、自分でも自覚していた。心の底から善意で言っているのか、はたまた弱いと知っての行動なのか、春には理解しずらいからである。
 暗闇に包まれた見知った町並みを見るのは、今まであったことを嫌でも思い出させる。高校二年生になってから4ヶ月、早いようで長かった。なにより、桐間と関わってから、春の世界はただ楽しくだけで生きていた毎日が変わった。悲しみや苦しみも交えたが、そのかわり、もっと新しくて大切な感情が味わえることができたのだ。

「ほら、春さん。降りましょう」
「おう」

 目的地に着いて、二人が降りると夜中の栄えた駅ではないからか、二人以外は誰もいない。駅から春の家は近いので、木葉に送るのは出口まででいいと言うが、最後までと言うことを聞かないので春は家まで来てもらうことにした。とりあえず家まで行って、父に木葉を駅まで送らせようと考える。
 電灯がぽつり、ぽつり、とついた暗い夜道を歩いていると、後ろから光が見えた。

「車です」
「!」

 狭い道なため、隣をぎりぎりで車が通る。白線の内側に引かれた春は、木葉の胸に飛ぶこむ形になった。いきおいでうった鼻をさすっていると、木葉は謝ろうとする。

「こんなとこで抱き合ってるなんて、大胆なカップルだね」

 だが、謝る前に後ろから声がした。春が異常な反応を取って木葉から離れるので、不思議に思い振り返るとそこには、微かだが不機嫌どころではない桐間が立っているのが見える。
 木葉は一瞬誰かと思ったが、すぐに思い出した。あの人か、くらいで片付ける木葉とは違い、春は逃げだそうするくらい顔を真っ青にしている。それもそうだ、泣きじゃくるくらい酷い仕打ちをされたのはたった三日前。春は夏休み後に会うだろうと踏んでいたので、さすがにこれはいきなりすぎた。焦る春とは違い、桐間は腕を組ながら春をみる。

「なぁ、折角迎えにきたのに、男同士が抱き合っているなんて胸くそ悪い所を見せつけやがるなんて、喧嘩でも売ってるんだよね? そうか、そうか、そんなに殺されたいのかお前は」




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