ならば仕方ない、とでも言うかのように木葉はほっぺに唇を当てると、春の手を取り湯から上げる。濡れた髪が、また木葉を色っぽく見せるが、そんなこと春には考えてられなかった。

「さぁ上がりましょう。逆上せます」
「っお前、またキスしやがっ…」
「頬はキスのカウントに入りませんよ」
「馬鹿かお前は! あ、次キスしたら絶交だからな!」

 春は木葉に穴が空くのではないかと言うくらい指を指しながら言った。必死のあまり歩くたびすべりそうになっているが、どうにか持ちこたえているようである。木葉は春の言葉を聞いて、ため息をついた。

「次、か。やっぱり甘いよね、春さんは。」

 さっきも木葉は甘い、と言っていた。
 俺のどこが甘い、俺は怒ると怖いぞ。しかももう怒ってんだかんな!
 春が歯軋りしながら睨み付けていると、木葉は子供を扱うように体に腕を巻き付ける。春はゾクゾクと背筋が凍った。だが春もスキンシップがここまで多いと、もう勝手にしろと諦めてくる。そんな春に、やっぱり木葉は甘いと思った。
 春が上がり、体をタオルで拭いている間に部員たちがすれ違いで風呂に入っていった。キスをしているところを見られなくてよかったと安心していると、木葉はパンツを履きながら笑う。

「また一緒に入りましょうね」

 誰が入るかばか。
 面白そうに笑う木葉に腹がたった春は蹴りをいれようとするが、華麗に避けられてしまい、もやもやした気持ちを壁にぶつけると思ったより痛い。
 春は涙目になりながらも痛いとは言えずにいると、木葉は気付いて春の足を擦った。どうにも尽くしてくる木葉に何も言えず、そのまま部屋に帰る。

「お、春と木葉はもう入ったのか。俺いまからはいってくるわ」
「あれ、あと30分後くらいに飯じゃないんすか」
「ちょっとずらしてもらったんだよ。あ、お前らのねる場所そこな。」

 部屋の扉を開けると、永川が着替えを持ちながら二人を見ていた。言葉を交わすと、永川はいつの間にか敷いてある布団を指差す。
 何十人分も並べてある布団は、春と木葉が風呂に入っている間にもう場所取りがされてしまっていた。そこで残ったところにおかれているのだろう、春と木葉の荷物が隣同士でぽつん、と置いてある。

「春の隣、八町だから気を付けろよ。あいつ寝相わりいから。」

 永川はそれだけ言うとじゃーな、といいながら部屋を出た。部屋には誰もいないで、また、春と木葉二人だけになっている。
 だが、疲れている春は木葉を意識せずに布団に向かうと、早々に寝床に入った。あと夕食まで少し時間があると永川も言っていた。春が背を丸めながら寝る体制に入ると、何かをしようとしていた木葉も春をからかい疲れたのか、ふらふらとしながら布団に寝転んだ。




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