「春さん」
「ん?」
「桐間さんのことまだすきですか」
「うん」
「そうですか」
即答されてしまった木葉は、それでも笑顔を崩さぬまま、春に背中を向けてシャワーを浴びた。春も気にしたわけでもなく、ただタオルを目に乗っけて疲れを取るだけである。
「木葉」
「はい?」
「まだ俺を好きなの」
「もちろんです」
「まじか」
かっこいい顔して、なに変なこと言ってんだか。
春は思いながらも、嬉しい反面罪悪感すらあった。きっと木葉は男相手にこんなにしつこくするということは、この少しの間だけでも春が桐間を想うくらいすきになってくれている。だから、その気持ちの重さは嬉しい。だが、自分が桐間のことで悩んで泣いたことを考えると、苦しみもわかってしまうのだ。
「木葉みたいなかっこいい奴が、俺なんか好きになってもったいねーよ。」
「そんなことないですよ?」
「俺は桐間がすきだし」
独り言のように呟くと、木葉はもう洗い終わったようで湯船につかる。そして春の前にくると、また笑うのだ。
いまの木葉の笑顔が嫌い。
春は今までどんなときでも、可愛く思えた木葉の笑顔に悪態をつく。何故ならば最近、本物の笑顔と偽物の笑顔の区別がつくようになったからだ。今のは偽物。無理に笑っている。
「木葉さ、無理に笑うなよ」
「え。」
な、ともう一押しすれば木葉はまた笑った。次は無理やりではないと気付き、春も機嫌を良くする。そしてまたタオルを目に置き湯船の縁に頭を乗っけると、湯を堪能していた。
木葉は手で湯のなかを歩きながら、そんな春に近寄る。しばらく春を優しく見ると、ゆっくり、ゆっくり、顔を寄せ。木葉は簡単に春の唇に口づけた。春は押し付けられた感触に肩を震わせ、直ぐに起き上がる。ごち、と鈍い音がなった。いきなり起き上がったせいで、木葉の口に頭があたったのだ。
「っ!」
「ちょっ、ごめん! けど、お前…!」
春は口を何回も擦り、木葉から距離をおく。木葉はそれを黙ってみていると、痛そうに口を押さえた。春は痛いのだろうと心配はするが、さすがに何も言わずに不意をついてキスしてきた輩に近づこうとは思わない。
「だ、大丈夫か」
「平気です。けど、こんな時に心配だなんて春さん甘いよ。」
距離を置いてしまったので眼鏡をしていない春には木葉の表情は読み取れなかったが、口振りで気分が良いのは分かった。
春は逆上せたのではないかというくらい頭がくらくらする。桐間にされたときも頭がくらくらした、キスというものには慣れないもので。ましてや男相手に二回連続されるとは思ってもみなかった。
「あ、あのな、見てないときにするなんて卑怯だぞ!」
「ツッコむ所はそこですか、…まぁ春さんらしいですが。あ、ついでに僕は先に言いましたよ。無防備ですよって。」
それはさっきのタオルのことだろ、言おうとしたときには木葉はまた近寄ってきていた。春は気付き逃げようとするが、時すでに遅し。木葉にしっかりと手首を捕まれている。
「はなせっ!」
「春さん、こっち向いて」
「やだ!」
[*前] | [次#]