夏休みに入って、すぐ、夏合宿ははじまった。夏休みは家で寝て過ごすはずだったのに、サッカーばかりの日々にうんざりした春は、わざわざ岐阜に来ても力は出ない。溝呂木が借りた大きなグラウンドで皆の間にボールが飛び交う中、春だけはごぼれてきた使われないボールの上に座ってみんなの姿を眺めた。
 それにしてもやっぱり木葉はうまい。見てて楽しいなー
 木葉は、と言えば、普段の練習といい、今のこの炎天下のなかといい、調子は崩れていない。やはり王子様は違うと、悔しくなった。
 春は汗が止まらない自分を見て、それに比べ動き回ってる先輩達はもっと辛いだろうと思う。練習をする人たちを見習い、春もそろそろ再開しようとするがその意気も笛が鳴り練習終了を知らされ、無駄になった。
 ボールを片付けようと立ち上がろうとすると、立ち眩みか、どうも春の足元は定まらない。こるはだめだ。春はあきらめて後ろに倒れたが、春の背中が地面につくことはなかった。

「わ、大丈夫ですか!」
「…木葉」

 元々話し掛けようと春に近寄っていた木葉が、後ろから支えてくれたようである。木葉は春が倒れたのを初めて見たようで、驚きながら春の汗を拭った。
 木葉はつかまって、と自分の肩に春の手を促す。そんな木葉に春も流石にまずいと感じたため、大人しく木葉の肩を借りると、やや足をひきずりながら歩いた。

「早く宿に行きましょう、歩けます?」
「ありがとう。でもそんなに気にすんな、良くあるし」

 木葉は笑って見せる春と、黙って宿まで向かう。完全に支えてくれた木葉のおかげで無事に着くが、靴を脱ぐときに肩に置かれた手が滑り落ち、春は倒れ床に手をついた。木葉も反応は遅いながらも、一応春の腹部を掴み支えようとするが意味はなさない。

「怪我はありませんか、すみません!」
「いやいいって、ありがと」

 倒れそうになった本人は脱力した顔を見せる。良くあると言っていたのでなれているらしい、と木葉は諦め気味にまた春を支えた。だがさっき腹部を掴んだ時の手に骨ばった感触を思いだし、木葉はまた確かめるように春をさわる。

「うわ、なんだよ」
「…細い、ですね」
「ああ、うん、だよな。食べても肉も筋肉もつかねーんだもん」

 言うとおり、春は良く食べる。そして運動もする。それなのに身長だけは標準よりは伸びたが、こんなに薄っぺらい体になるとは、春もコンプレックスらしい。木葉はそれ以上体については触れなかったが、腕だけではなく体ごと支えながら案内された部屋まで歩いた。




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