春の顔の横に通る腕が、力を込めたがために震える。仮面は外されないままだが、春でも分かるくらい木葉は静かに怒っていた。
 だが春は未だに、木葉が怒る意味が分からない。はっきり言ってしまえばこの前あったばかりの相談もしたことない後輩に、何故男が好きだと伝えなくてはならない。これがもし女を好きだとしても、こんなには早く話さないであろう。
 少し憎しみをこめて、睨み付けるように見上げた。

「お前に言う必要はないだろ。だいたいこんなこと、この前会ったばっかのやつに言えるかよ」

 春はわざと傷付けるような言い方をして、木葉を離れさせようとする。だが木葉はというと、平然とした顔をして、春を見返した。

「あ、言ってませんでしたね。俺、春さんに一目惚れしたんです。それでまた会ったものだから、運命感じまして。告白遅れました。好きです、春さん」

 そう、ゆっくりと告げる木葉に、春の頭はショートする。木葉の態度は普通のまま、照れることも、恥ずかしがることもなかった。むしろ、近すぎる距離で春に伝えた。
 春はなにか言おうと口を開くが、それに被せるように木葉が口を開く。

「ああ、それでね。好きな人の恋愛について知りたいでしょう? だから包み隠さず教えてほしいなって。だから嘘は嫌なんです。」

 だめですか?
 かっこいい顔で可愛く言われても、今の春には感じることさえできない。ただ混乱していた。
 まず考えてみよう。一目惚れとはなんぞや。たしか一目で好きになっちゃうこと? じゃあもしかして木葉が定期落として、俺が一緒に探した時に惚れられたってこと? いやいやいや、うれしいけど、たしかに嬉しいしいけどちょっと違う!
 考えが絡まったせいで、一時的にフリーズしている春を見て木葉は眉間にしわを寄せる。きっと春から返事がこないからだろう。壁に当てていた手を肩にのせると、ゆらゆらと春を揺らした。春が気がつくと、木葉は言う。

「教えてくれますよね?」
「え、いやその」
「俺、春さんのこと好きなんですよ? しかも春さんがあの先輩を好きならあなたにはフラれたことになってますし、フッた俺のことかわいそうとは思わないんですか。」

 木葉は下を向きながら、目をあわせないで言った。その肩は震えていて、春は浩をフッた時には思わなかったが、木葉は何故かかわいそうに思える。
 そうだよな、木葉は俺を好いてくれてるんだし、うそつくなんて失礼だよな。
 春は変に説得された。

「わかった、包み隠さず話す」
「本当ですか、ありがとうございます! あ、話してたらこんな時間…もうサッカー部行きましょう?」

 木葉は言いながら春の手をとるとサッカー部まで向かう。手を持つのはおかしいのではないかとは思うが、あまりにも自然すぎたのでそのままにしてしまった。




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