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内藤新宿外れ、角筈の一角に構えた武家屋敷。
そこは、およそ50万人を越えると言われる江戸に住まう人々の、安全を司る特殊警察組織のひとつ《真選組》の屯所であった。
白い塗り壁に覆われ、でかでかと表札を掲げられたその屋敷の出で立ちはまさしくお役所風情であった。



太陽が登りきり、街が起床し始める今の時間帯。早朝稽古が終わった真選組隊士たちは手早く朝食を済ませ、ひとつどころに集められていた。いつもであればとっとと飯を食ったあとは始業時間まで各々時間を潰している頃だ。だからなのか、幹部らしき人間が2人、部屋に入ってきてもそっちのけで談笑に興じており、一向に気付く気配がない。


「おいオメーら、会議始めるぞ」


入ってきたうち1人が声をかけても、気もそぞろな隊士たちの耳にはこれっぽっちも入っていない様子で、幹部の一声はざわめきにかき消されて散った。


「お〜〜〜〜い」


二度目のチャンスのつもりか駄目押ししてみるが、依然として隊士たちはまるで自室にいるかのような具合で、
「昨日の逃げ恥見た?」
「見た見た。廻り中に飯屋で見たわ〜ガッキー天使だよな〜」
「土方死んでくれ〜」
と、およそ集会における警察官とは思えぬ体たらくであり、市井の人々をして"チンピラ警察"と言わしめるその程を伺わせる。


浮ついた態度のままの隊士たちにラチがあかないと判断した幹部は、いったいどこに隠し持っていたのかバズーカを取り出して担ぎ上げ、それを隊士たちに向かって



――ドカァァン




発射した。








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「おう、それじゃオメーら始めんぞ」

「「「押忍!!!!」」」



手のひらを返したように居住まいを正し、キビキビと返事をした隊士たちの頭は焦げ付いて鳥の巣のようになっている。プスプスと黒煙を上げ、みじめにも髪の毛がチリチリになっていた。
どこの破片なのか、木の屑が膨れ上がった髪に刺さっている者もいる。



「今日集まってもらったのは他でもねェ。

今年に入ってきなくせえ動きを見せてたヤローが桂の一派と接触した。錦の隠密調査によるところでは武器の密輸に数枚噛んでいるみてーだ」



バズーカを後ろ背に置いた男が話し始める。

この会議を取り仕切るうちの1人であり、この真選組きっての頭脳派と名高い"鬼の副長"・土方十四郎である。


背筋がヒヤリとする程鋭い目にくっきりとした鼻梁。意思の強さを表したような眉、形の良い唇、そして弛まぬ鍛錬の証拠である厚い肩周り。
この役者も見劣りするほどの男前が真選組の片脳と呼ばれている男だ。

土方の言葉に、それまで空気が抜けていたような顔をしていた隊士たちの目に光が宿る。
言葉を引き継ぎ、今度は土方の隣の人物が口を開いた。


「爆弾は桂の十八番だけどここしばらく息を潜めていたことを考えるとどうも何か企んでる匂いがするね。
しばらく諸外星の要人の来星も表立ったものもないとなれば、特定の人物というよりはターミナルか大使館を標的にしてると見るのが妥当だろう」



土方の言葉を引き継いだ線の細い人物が、真選組有するもう片方の頭脳、古見錦だ。
土方とは真逆の雰囲気を纏った幹部で、普段は監察方小頭として一歩引いた立場にいるが、有事の際には局長に代わる権限を持つ"局長助勤"という役職持ちでもある。
錦は形のいい唇をゆるりと持ち上げながら続ける。


「奴らが警戒心を最大限に高めている今、闇雲に突っ込んでことを急くのは良作じゃない。奴らがどこに潜伏しているのかまだ掴めてないしね。

でも、今回の企みは生半可な計画じゃないはず。大きな計画には、大きな隙が出来やすい。

僕の言っている意味、わかるね??」


残念ながら、わかるね?と念を押されてもこの場にいるのはほとんど無学の田舎侍たち。要領を得ない説明に、いまいちピンと来ない。

来ない、が、


「「「(なんかやな予感がする)」」」


引きつらせた隊士たちの顔を見て錦はにっこり続けた。


「やるならいっそ、まるごと殺る気で。
それが今回のスローガンです。





みんな、頑張って一網打尽にしようね。


つまり錦のいう今回の作戦とは、目ぼしい場所に張り続けて奴らが網に引っかかるまで泳がせようと、しかもその罠の"餌"に天人や幕府を使うという、いっそ暴挙とも言えるーーーーそれこそチンピラ警察の名に恥じない作戦だった。


スローガンなんて悠長なこと言ってる場合かとは、誰もツッコめやしなかった。